新型マドンSLRデビュー! 二兎を追ったトレック、それは半端か万能か Part.1
新型マドンSLRデビュー! 二兎を追ったトレック、それは半端か万能か Part.1
シートチューブに大穴を開けた先代マドンにも驚かされたが、今回も驚きのニュースである。先代が発表されてからたった2年しか経っていないのに、もう新型マドンがデビューし、しかもエモンダと統合され万能モデルになるという。マドンの空力とエモンダの軽さを融合するというコンセプトはあまりに都合がよすぎる気もするが……来日したトレック本社スタッフのインタビューを通して新型マドンを解剖し、試乗した安井行生が評価を下す。
8世代マドン、華麗なる転身を遂げた
ロードバイクの走行抵抗の中で、もっとも大きな割合を占める空気抵抗。 その空気抵抗の中で、もっとも大きな割合を占めるライダー背後の負圧エリアによるドラッグ。 ライダーの後方に不可避に発生し、圧力差によってライダーを後ろに引っ張り続け、高速域では我々の脚力の大半を吸い取ってしまうその負圧エリアに前方からエアを流し込んで気圧の差を埋めんとするのは、先代マドンのシートチューブに開けられた大穴、ISOフローである。 これまでのエアロロードの「人間の形は変えられないのだから諦めて、機材の空気抵抗だけでもなんとか減らす」という思想ではなく、「機材の形状を工夫して人間の空気抵抗そのものを減らそうと努力する」というアプローチ。まぁ現実はそんなにうまくはいかないのだろうが、乗ってみれば高速維持性能は一流だし、風洞実験にかけてみればスモークが綺麗に穴の中に吸い込まれていく。 このISOフロー、奇抜な成りをしていながら、しっかり機能しているのである。 しかも、可動機構であるISOスピード(5~6代目マドンが採用)よりシンプルで軽く、構造的にサドル部分の快適性が高まる。その設計思想は、軽さと剛性と空気抵抗削減を三者両立できるカムテールデザインと同じくらい現代ロードバイクにとって画期的だったと思う。 今までトレックは、フレームに合わせた専用リムブレーキを開発してみたり、ヘッドチューブに小さな扉を付けてみたり、シートチューブを二重にしてみたり、トップチューブを分離させてスライダーを間に挟んでみたり、フレーム各所にベアリングを仕込んでみたりと、複雑怪奇な可動機構を用いて高性能を実現してきた。ロードバイク界きっての技術重畳型自転車メーカーだったのだ。 それが先代となる7代目マドンで一転、シートチューブに穴を開けただけのシンプルなISOフローに集約される。しかも、空気抵抗削減、快適性向上、軽量化、ルックス上の個性の演出という一石四鳥。それは、技術のパワープレイからエレガント・エンジニアリングへの華麗なる転身だったと個人的には思う。