藤 竜也「やりたい仕事を目の前にすると、腹を空かせた子供みたいにしゃぶりつくんです(笑)」
複雑ながら面白い関係図をつくる登場人物たち
── 主演・森山未來さんとの共演はいかがでしたか? 男親と息子の距離感も絶妙でしたね。 藤 ぴったりでしたよね。森山さんが演じる卓君は屈折感がある。陽二も屈折しているから、親子でよく似ているなあと思います。私も父親ですから深く考えなくとも自然な空気はきっと出ているんじゃないかな。でもまあ、陽二は最初の妻と息子をおいて、原(日出子)さん演じる直美の元に走っている。息子に対して非常に罪悪感を抱えて自分を責めているし、苦悩に苛まれている。そんなことを考えながら芝居はしてないけれど(笑)、複雑ながらおもしろい関係図だと思います。 ── 卓の妻・夕希役の真木ようこさん、陽二の再婚相手・直美役の原日出子さんの印象はいかがでしょうか? 原さんは共演されたことがあるのだとか。 藤 真木さんは、陽二と卓を柔らかい視点で見守っていて、空気をふわっとさせてくれる存在でした。原さんとは、過去に相米慎二監督の映画『ションベン・ライダー』で共演しています。往年の映画だから、もうかれこれ40年くらい経つんじゃないかな。大昔のことなので原さんは娘さんでした。この年でまた共演できるのはうれしいですね。 ── 近浦啓監督とは3回目のタッグでしたね。監督からは本作ならではの要望などはありましたか? 藤 これまでも近浦さんの作品に対する関わり方を見てきていたので、やっぱり信頼感があります。考え方から進め方、何から何まで真摯な人ですから。脚本を基に私が俳優としてどう役に入っていけるかが勝負ということを、お互いが理解し合えていたから、特にこれといった要望はなかったです。これも信頼関係でしょうかね。
つまらないことでも面白がるくらいが大事
── いくつになっても渋くて魅力的、そして生き生きしている藤さんですが、人生の楽しみ方を教えていただいてもいいでしょうか? 藤 生活の中では能動的に動くことかな。“今は動きたくない”とか“面倒くさいな”とか、くたっとした時間の過ごし方をしていると、人生はつまらなくなっちゃう。つまらないことでも面白がるくらいが大事ですよね。 ── なるほど。藤さんは、のんびりした時間よりも動いている時間の方が多そうですね。 藤 まめに動いて楽しまないと! 人に対しても自分から動くことって大事ですよ。なんでもないことだけど、朝は「おはよう」。何かしてもらった時は「ありがとう」。コミュニケーションを大事にすると、人生が豊かになる。何気ない会話があるっていいですよ。あとは私が苦手な笑顔があるといいねえ(笑)。 ── そんな藤さんと話していたら、我々から笑顔がこぼれてしまいますね(笑)。 藤 若い頃はね、何気ない話がまったくできなかったんですよ。そんな話をしても意味がない気がして。黙っている方が楽だったんだけど、今はそうじゃない。小さなことでも話さないと寂しいなって感じるんです。と言っても、仕事場でぺらぺら話しているわけではないんですけどね。 ── では、ご自宅で? どんな話をされるのでしょう? 藤 そう、家庭ではとりとめのない話をいつもしていますよ。「大谷が笑ったよ、カッコいいな!」とか。「今日の試合は雨で中止になっちゃったよ。つまんねぇなぁ」とかね。なんでもない日常で感じるあたたかさって、やっぱりいいものですよ。