藤 竜也「やりたい仕事を目の前にすると、腹を空かせた子供みたいにしゃぶりつくんです(笑)」
── 藤さんご自身はお元気ですが、この認知症の陽二を演じることにはどういう思いがありましたか? 藤 実際に認知症になっていたら演じられないけれど、この役ができるのは年寄りの俳優の特権なんじゃないですか(笑)。5年位前にも認知症の役を演じていて、その時に専門家に話を聞いたり、資料を読んだりして調べていたので認知症を患うとどうなるかというのは認識しています。でも、前作とは脚本が違うし、ひと言に認知症の役を演じるといっても全然違いますね。前回は静かでおとなしい役でしたが、今作の陽二はその時々によって理路整然としているような人だから、そりゃあ大変なキャラクターでした。 ── 撮影期間が約1カ月間とのことですが、同じ陽二さんでも別人のような表情があり圧巻でした! 長い台詞もありましたが、短期間で台詞をすべて覚えるコツはあるでしょうか? 藤 皆さんそろって「大変でしょう」とおっしゃいますが、あれは不思議なことに自然と台詞が入ってきちゃうんです。今回の撮影でも、陽二さんが私の中に入ってきたから、私は陽二さんに任せていましたね。私はただ身体を貸しているだけなので「覚えたものを思い出そう」という作業を頭の中でしていないんです。私が喋っているという自覚はないですから。
── 役が降りてくるのですね。普段から“憑依する”感じなのでしょうか? 藤 そうですね、役が入ってくるので任せちゃいますねえ。かと言って、撮影期間中はずっと陽二さんというわけではなくて、認知症と同じで、あっちこっちを行き来しています。現実の世界に戻ったり、別の世界に行ったりをオートマチックに。だから、休憩時間にご飯を食べている時は私。陽二さんではないんですよ(笑)。 ── すごい! 役のモードに切り替えるスイッチのようなものがあるのでしょうか? 藤 カメラの前で鳴らす“カチンコ”があるでしょう? あれがカチン! と鳴ると自然と役に入りますね。役から自分に戻る時もカチン! が合図です。