藤 竜也「やりたい仕事を目の前にすると、腹を空かせた子供みたいにしゃぶりつくんです(笑)」
私は“カッコいい”を求めたことは一度もないんです
── 昔から渋くて魅力的な藤さんですが、ご自身が理想とするカッコいい大人像とは一体どのようなものでしょう? 藤 私が憧れるのは、愚痴を言わずにやるべきことを黙々とやって、笑顔が美しい人。これが理想ですねえ。私は仕事は黙々としていたけれども、笑顔が苦手で……(苦笑)。男でも女でも、そんな人は「カッコいい」と思いますよ。 ── 年齢を重ねていくなかで「カッコ良さ」の概念は変わりましたか? 藤 う~ん……。私は“カッコいい”を求めたことは一度もないんです。褒めていただくことはうれしいけど、私は俳優として自分が納得して完成度が高い芝居をするだけ。作品を褒めてもらえれば「俺の仕事はひとつ終わったな」と安堵するけれど、自分自身が“カッコいい”を追いかけているわけではないかな。それに、カッコよさって無数にあるじゃない。 ──カッコ良さは 人それぞれ、みんなにあるということでしょうか? 藤 そう。私はこうやっていい年まで仕事をさせてもらっているけれど、カッコいいなあと思うのは自分にではなく、他の人に感じます。 ── それは役者さんに限らず? 藤 もちろんです! TVのドキュメンタリー番組などで、堅実な生活をしながら信念を持って生きているお父さんやお母さんの姿を観ると心から尊敬します。一生懸命生きている人はみんな素敵でしょう。
“カチンコ”を合図に、役が憑依する
── 本作は、第67回サンフランシスコ国際映画祭でグローバル・ビジョンアワード賞を受賞され、日本では公開前から話題になっています。藤さんは、「第71回サン・セバスティアン国際映画祭」で日本人初となるシルバー・シェル賞を受賞されました。おめでとうございます! 藤 名誉ある賞を受賞できたことはすごくありがたいけれど、私自身にはその実感がないんです。いい脚本があって、監督がつくりあげた器の中に入れてもらったからこその受賞ですからねえ。幸運があっただけ。近浦さん(監督)が一番喜んでいるんじゃないのかな。 ── 藤さんご自身は、撮影中やその後で受賞する手ごたえのようなものはあったのでしょうか? 藤 まさか!(笑) 世界中から選りすぐりの作品が何十本も集まっているわけだから、そんな簡単に傲慢になれたら人生楽ですよ。