発熱者出るも強行されたサガン鳥栖対FC東京戦の舞台裏で一体何が起きていたのか?
「濃厚接触者が特定されなかったということですが、昨日の夜に熱を出した選手がいるなかでわかるわけがない。そういう選手が遠征へ同行したとなれば、その時点で全員が再びPCR検査を受けて陰性がわかれば、選手たちも安心してプレーできる。安心を担保できないなかで試合へ臨ませることを、これからちょっと考えてもらいたいと思ったので、あえてこの場で話をさせていただきました」 サガンへの苦言ではなく、Jリーグへの問題提起と受け止めた方がいい。 もし発熱した選手が陽性反応を示せば、Jリーグによる公式PCR検査を受けてから数時間のうちに感染した可能性が高くなる。東京への移動中か、もしくは都内に入ってからの感染となれば、今後も東京都を含めた首都圏や、同じく感染が急速に拡大している関西や名古屋などへ遠征するチームのリスクが増すことを意味する。 その場合、現状の2週間に一度の公式PCR検査ではスピードを増す感染拡大状況に追いつけない。必要に応じて頻度を増す必要があるし、サガンからFC東京へ連絡を入れた件も、本来ならばマッチコミッショナーか、あるいはJリーグが負うべき役割と言っていい。村井満チェアマンも明言しているように、ガイドラインを臨機応変に修正および加筆していく状況にまさに直面している。 試合は下部組織出身の20歳、FW石井快征の2試合連続ゴールで前半30分にサガンが先制。FWレアンドロの直接フリーキックで追いつかれた4分後の同43分に、明治大学から加入したルーキー、右サイドバックの森下龍矢のプロ初ゴールで勝ち越したサガンが後半にも1点を追加。21歳のFW原大智のJ1初ゴールとともに勢いを増したFC東京の反撃を、身体を張って阻止し続けた。 「アウェイで選手たちがしっかりとハードワークして、準備してきたことを表現してくれた。勝てないなかでも一歩ずつ前へ進んできたなかで、全員が勇気をもってトライしてくれた」 初勝利を告げる試合終了と同時に森下が号泣し、途中出場後に脇腹を強打していたFW豊田陽平がピッチに倒れ込んだ光景を、サガンの金明輝監督は笑顔で称えた。対照的に3戦続けて勝ち星から遠ざかり、6位に後退したFC東京の長谷川監督は前半の内容を特に悔やんだ。 「いい形でファイトできなかったのは、そういう(相手に発熱者が出たことへの)心理的な要因があるのではないか、と。ただ、同点にはできませんでしたが、選手たちはよく戦ってくれた。こんなことを監督が言うべきではないのかもしれませんけど、これだけはみなさんにわかっていただければ」 長谷川監督が言及した「これだけ」とは、FC東京の選手たちが抱いた心理的な負担を指している。サガンが体現し続けたハードワークが感動的なフィナーレを導いた舞台裏で、新型コロナウイルスによってもたらされる影が再び大きくなろうとしている、非情な現実が浮き彫りになった。 (文責・藤江直人/スポーツライター)