子どものベランダ転落事故どう防ぐ 「高さ1.1メートル以上」戦後から変わらない法規制#こどもをまもる
「子どもの安全」を社会の責任として取り組む
ただし、もしベランダ内の安全対策が今より進んだとしても、「絶対に安全」はない。結局のところ、低年齢児であっても部屋の中から椅子などの「足がかり」をベランダに持ち出してしまうケースがあるからだ。 大野さんはあらためて「子どもをベランダに出さないことを徹底すべきだ」と強調する。 「実は、子どものいる家庭でもベランダの窓に鍵をつけていないケースが多いのです。その理由を聞くと『ちゃんと子どもを見ているから大丈夫』と答えます。しかし、それでは予防になっていません。小さい子でもベランダを乗り越えるのはほんの5~6秒です。そのわずかな時間まで完全に見守ることはできないでしょう。実際に『子どもが一人でベランダに出てしまった時に事故が起こっている』という認識を持つことが大事です」 東京都が行った調査では、ベランダを施錠している人は57.5%。「子どもの手の届かない所に補助錠を付けている」と答えた人は15.6%しかいなかった。
「子どもがベランダに出るのを防ぐためには現状、補助錠をつけるくらいしか手立てがありません。でも、補助錠もどういうものがいいのか、どれが使いやすいのか、ということが全然検証されていません。しかし、今はベランダの鍵すらかけていない人が多いので、まずは鍵をすること、加えて補助錠をつけるだけでも大きな前進といえます」(大野さん) 前出の瀬戸さんはそれに加えて、社会としてこの問題に取り組む必要性を指摘する。 「海外ではCDR(Child Death Review)といって、子どもの死亡原因を分析し、その原因から予防策を考えます。しかし、日本はそういう科学的な予防対策をしてこなかった。最近になってようやくCDRへの取り組みが出てきたくらいです。それは『子どもの安全は誰の責任か』という認識の違いによるものだと思います。日本では『親の責任』となる。しかし、海外では『子どもの安全は社会の責任』というのが一般的です」 子どもの転落事故を防ぐためには、家庭での安全対策の意識を高めることは当然のことだ。しかし、これまで「親の責任」としてきたことで対策が十分に前進してこなかった側面がある。であれば、まずは社会全体で子どもの安全に責任を負う意識を持ち、科学的な検証を通じて法規制の見直しも含めた対策を考えていくことが重要ではないだろうか。
--------- 小川匡則(おがわ・まさのり) ジャーナリスト。1984年、東京都生まれ。講談社「週刊現代」記者。北海道大学農学部卒、同大学院農学院修了。政治、経済、社会問題などを中心に取材している 「子どもをめぐる課題(#こどもをまもる)」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。 子どもの安全や、子どもを育てる環境の諸問題のために、私たちができることは何か。対策や解説などの情報を発信しています。