「株式の譲渡益」の課税逃れ…「国外転出時課税制度」創設で資産フライトが難しくなった⁉海外でも出国時に課税強化
米国では「住所地に関わらず」課税対象に
米国では、個人に関して市民権を基準として課税所得の範囲を定めています。米国市民はその住所地に関わらず、全世界所得課税であり、外国人については居住者と非居住者に区分して課税しています。 現行の米国離国者税(EXIT TAX)は当時のブッシュ大統領が署名した「2008年改正法」第301条(離国者に関する課税ルールの改正)に規定されています。 この規定に定義されている離国者(expatriate)は、米国市民権を放棄する者および米国の永住権であるグリーンカード等の権利を放棄する米国の長期居住者(long-term resident)です。 2008年改正前の第877条では、この個人が米国市民権を有する者または長期居住者であり、かつ米国を離れる前の課税年度の平均納税額が12万4,000ドル超であること、またはこの者の米国を離れる時点における純財産が200万ドル以上である場合などの要件を満たす場合、離脱後10年間にわたり納税義務を課したのです。 この課税要件が改正されて、出国時にすべての財産をその日に売却したものとみなして時価評価し、物価調整後に60万ドルの控除をして課税となりました。 また長期居住者の場合、居住者になった時点で所有していた財産については、居住者になった時点における時価で評価しますが、この制度には納税の猶予があります。納税義務者は選択により、資産の実際の売却時まで猶予されます。 また、国籍離脱者に対する贈与税の課税(米国では贈与者課税)は、国籍離脱後10年間にわたり贈与税の納税義務が継続することを規定しています。 この離国者税は、離国することをけん制する予防的税制の意味合いが強く、米国の個人課税の根幹である市民権課税を維持するための政策的な税制といえます。
日本と同様の出国税が設けられているフランス
現行のフランスの出国税(1999年に創設した旧制度は2004年廃止)は、2011年3月3日以降の適用が開始されたものです。 この課税は、所得のうちの譲渡収益を課税することに主眼があります。この課税の対象者は、フランス居住者から他国の居住者に居住形態を変更する際に、法人の株式の1%を超えて所有する者、あるいは所有株式の価値が130万ユーロを超える者がその対象となります。 株式の値上がり益に対して課税されることになりますが、当該株式を実際に譲渡した段階で課される税から、税額控除をすることができます。 また、出国税はその納付後8年以内であれば、還付が可能です。同税が還付される場合は、以下のケースになります。 (1)出国税額が算出税額を上回る場合、 (2)当該株式が譲渡されなかった場合、 (3)8年以内に納税義務者であった者が再度フランスの居住者となる場合 ただし、出国税は、フランス居住者が他のEU加盟国の居住者となる場合には課税されることはありません。 このフランスの出国税は、日本が導入した国外転出時課税制度と類似する点が多いといえます。 矢内一好 国際課税研究所首席研究員
矢内 一好
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