恐竜グループ分けが変わる?進化枝分かれの新仮説にみる“系統樹”の意義
地球は46億年前に誕生したといわれています。そして約40億年前から始まった生命の歴史は、多様な生き物の進化と絶滅の繰り返しでした。そうした生き物のはじまりをさかのぼっていくとき、道しるべといえるのが、生物の類縁関係を樹木のように枝分かれした図で表す系統樹の手法です。 先日、恐竜進化の系統樹について、130年支持されてきた従来のものとは異なる新しい仮説が発表されました。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、報告します。 ----------
恐竜の進化関(系統樹)における新しい仮説?
先週の学術雑誌NATUREに恐竜の主要グループ間の進化関係における「新しい仮説」が発表された(Baron等2017)。 Baron MG, Norman DB, Barrett PM (2017) A new hypothesis of dinosaur relationships and early dinosaur evolution. Nature 543 (7646):501-506. doi:: 10.1038/nature21700 Nature Japanによる日本語の要約「恐竜の系統樹を大きく揺さぶる新しい仮説」はこちらを参照。 どうしてこの研究が興味深いかというと、まず1887年以来これまで130年に渡って支持され続けてきた恐竜主要グループの系統樹とは、はっきり異なる新しいものを提案しているからだ。現在手に入る恐竜関係の本や関連のWebサイトなどのぞいてみれば一目瞭然だが、恐竜上目(Dinosauria)は2つの大きなグループに分類されている。「竜盤目Saurischia」そして「鳥盤目Ornithisuchia」だ。(Image1左側図参照) 竜盤類はティラノサウルスやヴェロシラプトル、鳥類など基本的に二足歩行を行い肉食の種で構成される全ての獣脚類、そしてアパトサウルスやディプロドクスなど超大型で長い首と尻尾をそなえた草食四足型の竜脚類と、やや小型で二足歩行型の祖先にあたるグループからなる竜脚系亜目を含む。鳥盤類は主に草食系の種で構成され、角竜や剣竜、鎧竜(曲竜)、カモノハシ竜などからなる。ほとんど一般常識として現在認識されているアイデア(もしかすると小学校や中学校の生徒でも知っているかもしれない)。 しかし今回の研究論文においてイギリスの研究者は恐竜が大きく「3つのグループ」に分けられるべきだと提案している(Image1右側の図)。その際、以下の3つの点がカギになると考えられる。(1)竜脚系亜目は獣脚類と同一のグループではなく、(2)鳥盤類と獣脚類が親戚同士という仮説的アイデアだ。言葉で表現するとややこしい印象をうけるかもしれないが、系統樹という図に表してみれば、この進化関係の違いをイメージとしてはっきり認識しやすいはずだ。) そして(3)鳥盤目と獣脚類を合わせたより大きなグループを、「Ornithoscelida(オルニソセリダ)」とした。(名前自体は19世紀後半頃からあったが、今回新しく定義された。)ちなみに竜盤目はこの研究において竜脚系亜目とヘレラサウルス科から構成される(しかし獣脚類は含まれない)と提案されている。(ヘレラサウルスの仲間が獣脚類ではないという点が実はカギになっている:Padian 2017参照。) Padian K (2017) Palaeontology: Dividing the dinosaurs. Nature 543 (7646):494-495. doi: 10.1038/543494a 平たく言うと鳥盤目をもとに、獣脚類と竜脚系亜目の進化系統上のポジションの違いということになる。一見シンプルに組み合わせだけの違いだが、どうしてNATUREのような最高峰の学術雑誌に発表され、サイエンス的に重要とされるのだろうか?