恐竜グループ分けが変わる?進化枝分かれの新仮説にみる“系統樹”の意義
系統樹から探る初期恐竜の進化プロセス
Image 1に見られるシンプルな系統樹。しかし実はたくさんのデータをもとに考案されている。具体的には、今回の研究において74の初期恐竜と457に及ぶ解剖学上の特徴が、まずデータ化された。そしてコンピューターをもとにしたプログラムで、この膨大な量のデータ解析が行われた。(これだけの量のデータになると、とても手持ちの計算機とメモ用紙だけでは間に合わない。) このように膨大で複雑なデータをもとに算出・解析された系統樹は、進化の詳細なプロセス ── 例えば恐竜の先祖と初期進化 ── を探究する上で、非常にパワフルで効果的なツールとなりえる。 さて現在、初期恐竜の進化研究において、いくつか大きな重要な問いかけが存在する。 (1)先述の3つ(Image 1右側の図)、または伝統的な竜盤目と鳥盤目の二つのグループのうち、もっとも原始的、または恐竜の直接の祖先に一番近いものはどれだろうか? 伝統的に肉食の獣脚類と長年考えられ続けている。しかし、一番最古の恐竜記録は約2.41-2.47億年前の「Nyasasaurus(ナィアサウルス)」という竜脚系亜目の可能性がある(Baron等2017)。ヘレラサウルス科も最初期の恐竜の一つとしての可能性が高いが、どのグループに属するか研究者によって大きく意見が分かれている。(注:このヘレラサウルスのミステリー性がこの問題をより難しく、そして興味深くしているのは間違いないだろう。) (2)恐竜の先祖は肉食か草食か、それとも雑食だったのだろうか? 獣脚恐竜が一番初期の恐竜なら肉食が基本形で、草食は先進的な食生活ということになる。しかし、もし竜脚系亜目がより原始的な恐竜なら、草食および雑食性から恐竜の進化がはじまった可能性を示す。 (3)恐竜の大型化は具体的にどのように起こったのだろうか? 三畳紀中期の多くの初期恐竜の種は小型だ(体長1-2メートルくらい)。しかしすぐにより大型のものが現れはじめた。具体的に大型化はどのように起こり進行したのだろうか? 化石記録が非常に限られているため、今のところはっきりしたことまで分かっていないようだ。 (4)恐竜の祖先は以前から言われているように南半球(南米やアフリカ)だったのだろうか? 今回の研究チームは北米の可能性を指摘している。(超大陸パンゲアの陸地環境を探る上でも興味深い問いかけだ。) (5)鳥盤目にも、いくつか興味深いミステリーがひそんでいる。どのようにして口ばしや特殊な歯、そしてほっぺたのような構造を備えた口を手に入れたのだろうか? (草食の食性と深く関わっているようだが、その詳細な進化プロセスははっきりわかっていない。)加えて、どうして鳥盤目は三畳紀の間、他の主要恐竜グループとは異なり、(ジュラ紀に入るまで)その多様性を遂げることができなかったのだろうか? こうした事実は、もし鳥盤目を最初期の恐竜グループに位置づけると、辻褄(つじつま)が合わなくなってくる。 よりはっきりした系統樹(=進化系統関係)の理解は、こうした詳細な初期恐竜の進化上のプロセスを探る上で、一番のカギとなる重要な情報といえるかもしれない。いわば進化をたどるための道しるべの役割だ。しっかりした地図を持たずに(恐竜の)山の頂へ登ることは不可能に等しい。異なる系統樹をもとに推理を行うと、まるで違った進化の道筋を結論として導き出す可能性が高くなる。