「セックスレスで仲がいい夫婦」はありうるか…渡辺ペコ×ひうらさとるが語る「いい夫婦」
夫婦について考えてみたかった
ひうら 渡辺さんが『1122』を描こうを思われたきっかけは何だったんですか? 渡辺 最初は取材して描くようなものを想定していたんですが、担当編集者さんと「そうじゃなくてもう少し身近な感覚で描けるものがいいかも」と話していた時に、「夫婦のことを描いてみたい」と思ったんです。結婚に至るカップルの物語や不倫の話ではなく、夫婦について考えてみたいと。きっとその時、自分が考えていた問題でもあったんでしょうね。 ひうら なるほど。 渡辺 当時、ネットの「発言小町」(編集部注:人気のお悩み掲示板)をめっちゃ見ていたんですが、やっぱり夫婦間の不平不満についてのトピックスがすごく多くて。すごく大事な関係性であるにも関わらず、どうしてこんなにも片方が不満を持っていたりつらくなっていたりするのかなと、とてもはがゆい気持ちになったんですね。なかでもセックスレスのテーマは、いつもトピックスの上のほうにあるという(笑)。 渡辺 その時私はまだ30代で、周囲の夫婦を見回しても、性的な部分がうまくいっている人が割と少ないなという感覚がありました。すごく仲が良くて支え合って生きているんだけど、実はセックスレスなんですとか。 ひうら 多いですよね~。 渡辺 そういう現状を見聞きして「いったいどういうことなのかな?」と疑問を持ったことが、『1122』を描くきっかけになりました。 ひうら そうだったんですね。
昔は結婚が繁殖とセットになっていた
いちこにとっておとやは、「夫で家族でズッ友で相棒で理解者でいちばん信頼してるひと、何でも話し合えるひと」だ。けれど2人の間にセックスはない。おふたりはこの関係性について、そして夫婦間のセックスについて、どんなふうに考えているのだろう? 渡辺 セックスは夫婦にとって、コミュニケーションのひとつではありますよね。その時々で答えは変わってくるかもしれないけど、大事と言えば大事ですし。ただそれも、夫婦によると思います。 ひうら 確かに。セックスがある夫婦=いい夫婦と定義されるのは息苦しいかな。「しなければいけない」みたいなのはちょっとなあ、と思います。 渡辺 昔は「繁殖」とセットになっていたのでしょうが、今は婚姻とか夫婦というものが個人と個人との繋がりであり単位になってきています。何をどこまで重視するかは、本当にそのカップルによって違うわけで。セックスに限らず、家事もそうですよね。パッケージに含まれているとされているものが自分たちにとってはどうなのか、という。 ひうら そう、自分たちにとって必要かどうか、そしてそれを当人どうしで話し合えるか。先ほどの「発言小町」の人たちも、「セックスができないから不満」というよりも、それについて相手と話し合えないことが問題なのだと思うんです。 渡辺 本当にそう思います。あと女性側の本当のところはわかりませんが、昭和とかその前くらいの世代だと、逆にセックスだけで繋がっている夫婦もいたかもしれない。ドラマや映画などのフィクションの世界でも、普段は粗暴な男が妻と頻繁にセックスしてる、みたいな描写があるじゃないですか。私はそういうことをすごく怖く感じるので、『1122』ではその逆を描いてみたかったというのもあったかもしれないです。 ひうら すごくよくわかります。美月の家庭だって、夫のほうは妻と上手くいってると思ってますからね。そのフィクションの監督も、男だからそんなふうに描けたんじゃないかな。