「えぐい」「やばい」「すごい」言葉にも“世代交代”がある!全部ほぼ同じ意味だが“発展段階”が異なる。言語学者が解説
「やばい」や「それな」などを「若者言葉」と言いますが、新しく作られた言葉だけでなく、もともとあった言葉と違う意味で使う場合などさまざまで、ほかの世代には通じないことが多くあります。 新著『言語学者も知らない謎な日本語』は、「若者言葉」について、国立国語研究所教授の石黒圭さんが大学生の娘たちとの対話から得た学びの記録です。 本稿は、同書より一部抜粋、再構成のうえ3回にわたってお届けします。 ■「推し」のおかげでがんばれる
長女:お父さんお父さん、YouTubeの虎信選手見た? 父:そんなに騒いでどうした? 虎信選手と言えば、今年入ったばかりの野球選手だよな。 長女:そう! その選手笑わないって有名なのに、ファンの子どもにフェンス越しにボールを笑顔で渡すシーンが激写されてたの! 父:あの虎信選手が? 意外だな。 長女:今私の最推しだから嬉しい。あの笑顔で白飯が3杯食べれるよ。 父:「最推し」? 知らない言葉だな。よし、例文を作ってくれたまえ。
長女:「くれたまえ」って今どき昭和でも使わないよ……。じゃあ、まず推しから。「推し」は、アニメやゲーム、現実のアイドルグループ。何でもいいんだけど、好きなキャラクターや、応援したい人のことだよ。 父:なるほど。好きな人か。 長女:そうそう。でも恋愛感情とはたいてい別かな。「最推し」ならthe best of 推しってことだね。よく聞く「推ししか勝たん」は「推ししか勝たない」つまり「推しが最高」ってこと。
父:とにかく推しが好きなのがよく伝わったよ。……あ、虎信選手だ。 長女:どこどこ!? あ、でも待って、あのルーキーの選手もかっこいい。めっちゃイケメン! 今日から推す! 父:すぐ目移りする……。 ■「推し」とは 終止形を連用形にすると名詞として使える。そのことに気づくと、途端に言葉のネットワークが広がります。 「はさむ」ものだから「はさみ」、「流す」場所だから「流し」、「立って食べる」から「立ち食い」、「引き出す」から「引き出し」、「首に飾る」ものは「首飾り」、「物を置く」ところは「物置き」など、動詞から魔法のように名詞を作ることができます。