【元宝塚トップスター安蘭けいさん・インタビュー/前編】「50代からも体力はつきます!」
この夏注目のミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』。再演に続き今回も安蘭けいさんがウィルキンソン先生役を演じる(ダブルキャスト)。さまざまな壁を乗り越えながらバレエダンサーになるビリー・エリオットの姿と、オーディションを勝ち抜いて主演に挑戦する少年たちの姿が重なる感動作品だ。この物語にはかなり思い入れがあるという安蘭さんに、話を聞いた。
ビリーを見出すウィルキンソン先生を演じます
人気ミュージカル『ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~』の中で安蘭けいさんが演じるウィルキンソン先生は、重要な役回り。少年ビリーがバレエという踊りを初めて見て、自分でも踊りたくなる、そのきっかけを作る存在なのだ。1980年代、イギリス北部の炭鉱町で生まれ育ったビリーにとって、それは未来に向かう大きな出会いだった。 「ウィルキンソン先生は、かつてバレリーナになりたいという目標を持っていたけれど、夢半ばで諦めて、田舎に戻ってきてバレエ教室を開いている人です。 挫折経験があるからこそ、人の痛みがわかる。ちょっと口が悪いし、キツイことを言ってしまうこともあるけど、すごく人間味のある温かい女性です。大好きな役なので、今回もまた演じられることをうれしく思っています」 この舞台の主役はもちろん、ビリー。様々な能力が要求され、11歳前後の少年にしか演じられないこの役を目指して、日本全国から1375人の少年がオーディションに応募した。 書類審査を経て、レッスン形式の長期オーディションを通して演技、歌唱、バレエ、タップダンス、器械体操などのレッスンを受け、11名の少年が2次オーディションを通過。さらに最終オーディションを経て、4人の少年がクアトロキャストでビリー役をゲット。1年にわたる育成型オーディションは、かなりの難関だ。
安蘭さんにとって、そのプロセスは他人事ではない。宝塚音楽学校に入るとき、3年連続で不合格。4年目にしてようやく合格したという経験がある。 「ビリー役に挑戦する彼らを見ていると、自分のあの頃のことを思い出します。どう傷ついたか、どう頑張ったか、具体的なことは覚えてないですけど、落ちても落ちても、諦めなかった。それは私自身の負けん気もあるのですが。 実は最後の4回目は受験をやめようと思っていました。でも父親が、『今まで3回頑張ってきたんだから、後もう1回ラストチャンス頑張れ!』と背中を押してくれました。 本人が頑張るのはもちろん大事ですが、自分の思いだけでは、夢を実現するのは難しい。周りの応援が、すごい力になる。そういうのは身をもってわかります」 宝塚歌劇団を退団するときに残した『夢は見るだけでなく、叶えるもの。もし叶えられなくても、叶えるために努力する道のりが夢』というコメントは、ファンの間でも有名。 つまり安蘭さんは、このミュージカルにぴったりの俳優なのだ。 そしてこのウィルキンソン先生という役は、かなりハード。歌も踊りも体力も技術も、求められるものはハンパない。 「前回、2020年の再演のときにウィルキンソン先生を演じると決まってからすぐに、パーソナルトレーニングを始めました。40代で、ちょっと体力が落ちてきたかなと思っていたので。 筋トレはもちろん、縄跳びをしたりタップをやったり。心拍数がばーっと150くらいまで上がるので、そういうのを繰り返していると息が上がらなくなるんです。 そんなトレーニングを週に1回、行けたら2回、続けていたら、めきめき体力がつきました。以前なら駅の階段を上るとハアハア息があがっていたのに、エスカレーターなんて見向きもしないで、ばーっと階段を上れるようになりました」