トランプ再選なら「株高」「金利上昇」「ドル高」が基本線だが「ドル安」シナリオも
移民抑制策で総需要増えなければディスインフレになる可能性も
移民抑制策についても、基本的には市場参加者に対して、インフレ圧力が増大するとの懸念を増大させるでしょう。コロナ期における労働市場では、(不動産価格や株価などの著しい上昇による経済的動機やコロナ感染を避ける動機によって)大量の早期退職が発生したことから、55歳以上の労働参加率(人口に占める働く意思のある人の割合)が低下するなど顕著な労働力不足に見舞われ、それは賃金インフレの根源となりました。そうした労働力不足を補ったのは大量の不法移民であり、現在も安価な労働力としてインフレ沈静化と景気拡大に貢献しています。こうした文脈に基づくと、移民抑制策は安価な労働力の減少を通じてインフレにつながると考えられます。 ただし人口動態の変化が経済・物価に与える波及経路はかなり複雑で、実際にインフレにつながるかは微妙です。移民抑制策により総需要が増大しなくなれば、ディスインフレ的な結果となる可能性もあるからです。例えば住宅への需要が鈍化すれば、家賃が落ち着くなどしてインフレ率の下押しに寄与します。 このように移民抑制策がインフレに直結するとは限りませんが、初期反応としてはドル買い・債券売り(ドル高・金利上昇)がコンセンサス・トレード(=多くの市場参加者が実施する取引)でしょう。ドル円相場は、10月31日の日銀金融政策決定会合で植田総裁が利上げについて「時間的な余裕があるという言葉は不要になる」と述べたことから円高が一時進行しましたが、衆院選後の円安がさらに加速する可能性に備えておきたいところです。
低金利を志向するトランプ氏が利下げを迫る?
ただし為替について、もう少し長い目でみれば、ドル安の経路も考えられます。低金利政策を志向するトランプ大統領が、Fedに利下げを迫るなどして金融緩和的な政策を実施するよう圧力をかける公算が大きいからです。選挙期間中に利下げを要請し、株高を促すことは民主党の追い風になりかねないため、現時点でトランプ氏はそうした発言を戦略的に自重しているようにみえますが、いざ大統領選に勝利すれば、株高を演出すべく急激に語気を強める可能性が十分にあります。その場合、株高、金利低下、ドル安の圧力が生じるでしょう。 なおハリス氏が勝利した場合、初期反応としては株安、金利低下、ドル安が想定されます。現在の金融市場ではトランプ氏の勝利がある程度織り込まれているため、その揺り戻しが予想されるほか、法人税率の引き上げが警戒されそうです。もちろん、そうした税を通じた富の再分配は、中長期的な経済運営に必要な措置ですが、短期的には上場企業(=大企業)の業績を下押しする可能性が高く、株価にはマイナスの影響を与えると考えられるからです。
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