「貴重な美術品を収蔵する美術館」に「株主からの圧力」が。文化・芸術活動を支える社会貢献事業の難しさ
中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。 千葉県佐倉市にあるDIC川村記念美術館の行方に注目が集まっています。20世紀の貴重な美術品を収蔵していますが、株主からの圧力にさらされて運営効率を高めることが求められているのです。 規模を縮小して東京に移転する計画も立ちあがりました。美術界からは移転に反対する署名活動も行われています。前澤友作氏が収蔵品の作品購入に意欲を見せるなど、多方面に影響を与えています。
社会貢献か? 株主の利益の最大化か? 企業に突き付けられる難問
一連の騒動は、企業(特に上場企業)の在り方を問うものとして、非常に興味深い内容です。 欧米を中心に、企業が資金を拠出して文化・芸術活動を支えるメセナが重視されてきました。豊かな社会の創造に企業が寄与するべきだという考え方が根底にあり、活動の見返りを求めることよりも、社会貢献の一環として捉えられることがほとんど。 日本でもバブル期にメセナが活発化しました。1987年に安田火災海上保険(現・SOMPOホールディングス)がゴッホの「ひまわり」を58億円で落札したのは有名。新宿駅から徒歩5分で、世界的に有名な絵画を誰でも気軽に鑑賞できることは、メセナの恩恵だといえるでしょう。 一方、東京証券取引所は現在、各上場企業に対して資本コストや株価を意識した経営を実現するよう求めています。PBR1倍割れの会社に対しては、厳しく改善を求めているのです。 PBRとは株価純資産倍率のこと。株価を1株当たりの純資産で除して求めるもので、1倍を下回るということは、解散価値の方が高いと判断されてしまうのです。 つまり、企業は見返りを求めずに社会貢献をするべきか、株主価値を最大化するべきか、という相反する命題のはざまで揺れているのです。そしてDIC川村記念美術館はその踏み絵となりました。