「貴重な美術品を収蔵する美術館」に「株主からの圧力」が。文化・芸術活動を支える社会貢献事業の難しさ
売却で得られる利益は計り知れない
DIC川村記念美術館は印刷インキ大手のDICが運営しています。美術館は総合研究所施設内に設立されました。収蔵品は簿価ベースで総額112億円。これはあくまで簿価で、実際はもっと高くなるだろうという見方がほとんど。美術館にはマーク・ロスコという画家の専用展示室が設けられており、複数の絵画があります。 2015年のクリスティーズのオークションで、マーク・ロスコの絵画一点が8190万ドル(当時のレートで97億6000万円)で落札されました。 たとえ収蔵作品の一部の売却であっても、得られる利益は計り知れません。 そこに目をつけたのか、香港を拠点とするアクティビストであるオアシス・マネジメントがDICの株式6.9%を取得しました。DICは2023年12月期にカラー&ディスプレイ事業が1割近い減収となり、事業単体で89億円の営業赤字を計上しました。アメリカやヨーロッパで進行したインフレの影響で、塗料用顔料などの出荷が停滞。2021年6月に買収したC&E顔料事業ののれんの減損損失197億円を計上するなど、不調が鮮明になりました。この期に398億円の純損失を出しています。
103億円の売却益でリストラに必要な費用を賄った?
DICのPBRは0.7倍。過去3年を振り返ってもPBRが1倍を上回ったことはありません。 通常、美術館は財団法人によって運営され、会社の経営からは切り離されます。しかし、DICはバランスシート上に保有する美術品を資産として計上しています。 DIC川村記念美術館は、2013年にアメリカの画家バーネット・ニューマンの「アンナの光」という作品を売却。DICは2013年12月期に103億3500万円の「美術品売却益」を計上しました。 当時、DICはヨーロッパの出版向けインキ減産に悩まされており、大規模なリストラを実施していました。2013年12月期は固定資産処分損とリストラ関連退職損失で合計55億円の損失を出しています。この期は前期と同じ191億円の純利益を出していますが、絵画を売却しなければ、大幅な減益に見舞われていたことは間違いありません。 すなわち、美術品を会社が所有することによって、業績悪化の埋め合わせが行える都合のいい存在となっていたことは否めないのです。それが美術館の運営を切り放さなかった理由の一つなのではないでしょうか。