「貴重な美術品を収蔵する美術館」に「株主からの圧力」が。文化・芸術活動を支える社会貢献事業の難しさ
積み立てた年金の資金が入っているに等しいDIC株
美術界からは、DIC川村記念美術館の縮小や移転は、日本という国レベルの損失だという声も聞こえてきます。確かに、日本でマーク・ロスコやジャクソン・ポロック、フランク・ステラなどの抽象画を常設で鑑賞できる場所は限られます。収蔵品の希少性は極めて高く、専用の展示ルームを設けるなど美術館そのものの(帳簿にのりきらない)資産価値も高いといえるでしょう。 しかし、DICは日経平均株価を構成する225銘柄の一つ。そして筆頭株主は日本マスタートラスト信託です。日本マスタートラスト信託は、資産管理業務に特化した金融機関。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)からの資金を預かっています。つまり、日本国民の年金の一部がDICの株式によって運用されているのです。 仮に美術館の問題が表沙汰にならず、DICが引き続き美術館の運営を続けていれば、株価は中長期的に停滞する可能性がありました。それはつまり、積み立てNISAなどで購入する日経平均連動型の投資信託の投資成果や、将来的に受け取れる年金を圧迫する要因にもなっていたはず。美術品の売却や運営の効率化はアクティビストを利するだけというイメージを持つ人も多いですが、積み立てた年金などとして国民全体を潤すのも事実です。 DIC対アクティビストというものではなく、もっと根深い企業の在り方を問われているのです。 <TEXT/不破聡> 【不破聡】 フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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