いつが旬?じつは知らない「おいしいうなぎ」の3つのポイント…《オスかメスか》《養殖か天然か》《夏か冬か》が分かった
うなぎの完全養殖と新ブランドの登場
現在の養殖うなぎは、マダイやヒラメのように卵から大人になるまですべて人間が育てているわけではありません。天然のシラスウナギ(赤ちゃんうなぎ)を捕って養鰻場で大きく育てています。 そもそもうなぎは繁殖行動すら、現在でもわからない部分が多いのです。2010年、独立行政法人水産総合研究センター(現国立研究開発法人水産研究・教育機構)は、世界初のうなぎの完全養殖に成功しました。 うなぎは雌雄同体ですが、うなぎの完全養殖のために不可欠なのがメスのうなぎです。不思議なことにシラスウナギから養鰻場で育てられたうなぎは9割がオスになります。理由はいまだにわかっていません。ですから第一関門はうなぎをメスにすること。 次の第二関門は、うなぎを繁殖可能な状態にして受精させること。続く第三関門が、受精卵を人工ふ化させて、レプトセファルス(生まれたての赤ちゃんうなぎ)を6cmほどになるまで育てること。 この第三関門がうなぎの完全養殖を実用化する上で最も困難とされています。そしてシラスウナギに変態し、大きくなったうなぎが卵を産んで、卵からふ化した赤ちゃんうなぎがまたうなぎになるというサイクルができます。 独立行政法人水産総合研究センター(現国立研究開発法人水産研究・教育機構)にいらした田中秀樹氏は、2018年に近畿大学水産研究所の教授として迎え入れられます。そして、2023年、近畿大学水産研究所は、大学で初めてうなぎの完全養殖に成功しました。 ふ化したレプトセファルスは半年から10ヵ月ほどかけて大きくなり、シラスウナギに変態します。シラスウナギを低コストで大量生産できる技術が確立できれば、うなぎの未来は一気に明るくなるでしょう。 また、専門機関による研究も進んでいます。メスのうなぎはオスに比べて大きくなり、身がやわらかいことが知られています。 2021年、「愛知県水産試験場内水面漁業研究所」(西尾市)では、大豆イソフラボンをシラスウナギの餌にまぜて与えることで、養殖うなぎの9割以上をメスにすることに成功しました。 これは、やわらかいというだけにとどまらず、短期間で大きく成長し、おいしいうなぎを作り出すことに成功した、という意味でもあります。大きく育てることで、限りあるうなぎ資源の有効利用が可能になり、供給量拡大を図ることにもなりました。 これらのうなぎは、「一色うなぎ漁業協同組合」と共同で、養殖現場での実証試験を経て「葵うなぎ」のブランド名で販売が開始されています。「あ」いちの「お」おきな、「おい」しいうなぎという意味と、うなぎ養殖が盛んな愛知県三河地方で生まれた徳川家康公にあやかっての命名です。 うなぎの食文化の継承には、うなぎ資源・うなぎ職人とともに「食べる人」も欠かせません。読んでもっとおいしくうなぎを食べていただければ、筆者としては無上の喜びです。 この他、うなぎの歴史、うなぎのおいしい食べ方、うなぎの名店など、うなぎに関わるおいしい情報は、『読めばもっとおいしくなる うなぎ大全』にてご紹介しています。
高城 久(うなぎ愛好家/己書家)