都会の夜空でも、見事捉えた星の光跡 初心者が挑んだ「天体撮影専用カメラ」の驚きの実力
地球は、想像以上の早さで自転している
星を「点」で撮ることにも挑戦してみよう。 星に露出を合わせるとシャッタースピードが遅くなり、(特に都市部では)画面が全体的に白く飛ぶ。夜の雰囲気を保った状態で撮ると光量不足になり、星はほぼ写らない。このあたりのバランスをどう取るかについてはいろいろと試行錯誤はしたのだが、やはりライブコンポジットで解決することにした。 やりかたは簡単だ。アストロをライブコンポジットのモードにしてシャッターを切る。5秒、10秒と経つごとに背面の液晶モニタにはゆっくりと星が浮かびあがってくる。その星が線として流れてしまう前に適当なところで撮影を終える、それだけである。 そうやって撮ったのが下の写真である(もう何度めかの注意喚起であるが、写真が表示されない場合はぜひ『まいどなニュース』のほうにお越しいただきたい)。 星をなるべく明るく写すためには、ライブコンポジットの時間を長く取ったほうがいい。だが、これはマウントするレンズの焦点距離にもよるのだが、60秒も撮っているともはや星は点ではいられず、線となって流れ出す。地球は、想像するよりもずっと早いスピードで自転しているのだ。 この点と線の松本清張的ジレンマを解決するには、赤道儀というハードウェアを追加購入する必要がある。それさえあれば星はもっと明るく、しかも動きを止めて撮ることができるのだ。もちろん私はそんなものは持っていない。読者諸賢におかれては「襟川にもっと高い原稿料を払ってやれ」と、まいどなニュース編集部に陳情していただければ幸いである。
天体撮影撮影は、さまざまなことを想像し、考えるきっかけをくれる
ところで、カメラメーカー各社は自社の製品が天体撮影に用いられることは当然想定しているのだが、ライブコンポジットに相当する機能を持たせているメーカーは意外に少ない。あくまでも私が調べた範囲では、と断り書きをしてからいうが、特にカメラ内部で複数枚を合成する機能まで備えたものになると、OMデジタルソリューションズの他には一社があるのみだ。 OMデジタルソリューションズは、これは旧機種になるのだが、自社のカメラを「星空を一番撮りやすいカメラ」と紹介している。確かにその通りだと思う。天体撮影の初心者にとってはライブコンポジットの手軽さが、ハイアマチュアにとってはアストロという専用機の存在が、同社のカメラを選択する有力な動機になるのではないか。 機材の返却期限も迫ってきたところで、そろそろ結論を書く。 アストロの機能の高さは、正直いって私の手には余るものだった。Hα線透過率約100パーセントも、フィルター等のシステム展開も、なんならプリセットされている設定も、私には使いこなすことができなかった(本稿に掲載した天体写真は、私が普段使いしているOM-D E-M1 Mark III でも十分に撮影可能である)。 だとしても、アストロをきっかけに天体写真を撮ってみようと思い立ち、実行できたことは大変に有益だった。ぼんやりと夜空を眺めているだけでは見えない星の姿をアストロを通して発見する感覚は過去に経験したこともなく、大変な知的興奮を覚えるものだったからである。 晩夏の東京は天体撮影に適した環境とはいえず、撮影は雲に阻まれたり台風に邪魔されたりもあって、本稿はすでに原稿料とは到底見合わない手間暇が注がれている(いつものことではある)。しかしそんなことはまるで問題にならないくらい私は天体撮影に夢中になった。本稿冒頭で、自分にとってのカメラは記録でしかないと書いた。しかし記録や、なんなら仕事すらも離れた写真撮影がこんなにも自分の心を動かすとは想像もしていないことだった。 これから秋が深まるにつれ空気は澄み、天体撮影に適した条件が整ってくる。10月中旬には紫金山・アトラス彗星が見ごろを迎え、11月にはおうし座南流星群が極大になるなど天体ショーも準備されている。カメラや写真撮影に興味のある向きは、ぜひ天体撮影に挑戦してみることをおすすめしたい。好奇心のあちこちが刺激される体験が待っているはずである。 (まいどなニュース特約・襟川 瑳汀)
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