都会の夜空でも、見事捉えた星の光跡 初心者が挑んだ「天体撮影専用カメラ」の驚きの実力
OMデジタルソリューションズの「本気」が窺えるシステム展開
一般に天体専用のカメラはHα線の透過率を高めた設計にするのがセオリーのようだが、アストロの「ほぼ100パーセント」は、民生機においては異例に高い数値である。2015年にはニコンがD810Aというデジタル一眼レフを、直近では2019年にキヤノンがEOS Raというミラーレス一眼を、それぞれ天体専用と銘打ってリリースしたが(現在はどちらも終売)、それだってHα線の透過率は40パーセント程度だ。 ニコンやキヤノンのフルサイズ機とアストロとでは撮像素子センサーの大きさも違うので単純な比較はできないが、少なくともHα線の扱いに注目すればアストロはより鮮やかな天体写真を撮ることを志向しているのは確かだし、またよりニッチで、よりチャレンジングなカメラであるともいえる。ここが、天体専用カメラたるアストロのアイデンティティのひとつである。 もうひとつ、アストロのアイデンティティを感じるのはそのシステム展開である。 アストロには、都市の光害を軽減したり、星の光をにじませて強調したりといった機能のある専用フィルターが別売で2種用意されている。一般にフィルターというとレンズの対物側につけるものだが、アストロはなんとカメラ内部、撮像素子の手前に嵌め込む形で装着する。これによって得られるメリットは、大きくふたつだ。レンズの数だけフィルターを購入する必要がなくなること、フィルター装着が困難な広角レンズや魚眼レンズでもフィルター効果が得られること、である。 これは、素直に「凄い」と思った。私もカメラを弄るようになって長いのだが、こんなシステム展開をしたものは他に類例を知らない。 さらにアストロには天体撮影に適したカメラ設定が2種類プリセットされていて、ダイアルひとつで気軽に呼びだすこともできる。これも他社の先行機にはあまり見られない機能だ。天体専用カメラを謳うアストロの面目躍如といったところである。先述のフィルターのことも含め、アストロにかけるOMデジタルソリューションズの「本気」が窺える。 かつて(前身たる)オリンパスは「宇宙からバクテリアまで」を標榜していたことを思い出す。それは、わが社のシステムはマクロからミクロまで森羅万象を写し取ります、という自負のようなものだったのだろう。いまや銀塩写真はデジタル写真に取って代わられ、オリンパスの映像事業は分社化されても、あのDNAのようなものはアストロの中に生きているのだなあと感じ入ったことであった。