アメリカで「構造化」するフェイクニュース 国民の分断とメディアへの不信
2017年は「フェイクニュース」という言葉が、世界中に浸透した1年だった。怪しげな情報を「フェイクニュース」と冗談半分で日常的に呼ぶようなことも広がっている。すでに日常化しているともいえる「脱真実」の現在を、アメリカの例を中心に検証してみたい。(上智大学教授・前嶋和弘) 【写真】“嘘のニュース”が世論をつくる? 米大統領選で注目集めた「脱真実」
SNSで拡散する「虚偽」情報
日本でも流行語大賞にノミネートされたように、「フェイクニュース」という言葉は世界的に定着した感がある。 アメリカではここ1年、2016年大統領選挙でロシアがネット上で拡散させたとされる様々な虚偽の広告の解明が進んだ。この広告とは民主党のヒラリー・クリントン候補を意図的に陥れる内容だった。その中には、クリントンとムスリム過激派との関連などをほのめかせるものや、夫のビル・クリントン元大統領の隠し子という明らかな嘘も多数含まれていた。この虚偽の広告がフェイスブックなどを通じて一気に拡散していく仕組みが明らかになっている。連邦議会が明らかにしたところによると、アメリカ国民の中で延べ1億5000万人が広告を見たとされている。この1億5000万人という数は2016年の大統領選挙で実際の投票した数よりも多い。 この広告が選挙の結果を左右したかどうかは結論付けられてはいない。しかし、2016年の大統領選の結果は非常に僅差だったため、少しの影響が大きな差を生み出した可能性もある。また、この広告にトランプ陣営が関与していたのかどうかはまだ明らかでないが、これこそが一連のロシア疑惑の中核の一つと考えられている。 一連のロシアのサイバープロパガンダに対して、アメリカの選挙が極めて無防備であるという世論が高まっており、2018年の中間選挙に向けてフェイスブック、ツイッター、グーグルは急いで対策を急いでいる。 同じようにロシアは2016年6月、イギリスで、EUからの離脱を問う国民投票が行われた際、ロシア政府との関連が指摘されるロシアの企業がツイッターの偽アカウントを使い、離脱を支持する投稿を繰り返していたと指摘されている。 いずれにしろ、情報戦がSNSで非常に容易になったのは事実である。組織的なサイバープロパガンダにしろ、一種の愉快犯にしろ、虚偽の情報がネット上の拡散する時代になってしまったのは間違いない。