アメリカで「構造化」するフェイクニュース 国民の分断とメディアへの不信
「嘘」というレッテル貼り
一方で、報道の内容について、自分にとって都合の悪いものを「嘘」と断言する際にも「フェイクニュース」という言葉が使われるようになった。いうまでもなく、トランプ大統領の言動がこの代表的なものである。MSNBCやCNN、ニューヨークタイムズなどのリベラル色が強い報道機関のニュースがトランプ氏の標的となった。 トランプ氏が「フェイク」と叫ぶ報道の中には、確かに誤報や誇張表現もあったが、そもそも真偽を確認するのが難しいものも少なくない。報道の内容の真偽はおいておきながら、まずは「嘘」とレッテル貼りをすることが自分を守ろうとするトランプ氏の戦術でもある。2016年の大統領選でトランプ氏の当選を十分に予想しきれなかったという負い目がどこか報道機関側にあるのも事実である。トランプ氏の「フェイクだ」という挑発に対しての追及がどことなく弱い気がするのは、この負い目が根底にあるような気がする。 トランプ氏はさらに、2017年8月には自分のフェイスブックに、「リアルニュース」と名付けた約1分半の動画を掲載した。この動画はニュース番組形式であり、トランプ氏が信じる「リアル」を伝えることを目的とし、制作させた。内容はトランプ支持者の元CNNのコメンテーターが「トランプ大統領は経済を正しい方向に戻している」とし、トランプ政権の経済面での実績をたたえることに終始した。大きな話題とはならなかったため、第2弾の配信はなかったものの、トランプ大統領流の情報戦を既存のメディアに仕掛けたという意味でも興味深い。 いずれにしろ、アメリカでは「フェイクニュースだ」というトランプ氏の叫びの前に、既存の報道そのものの信頼が傷つけられた一年でもあった。
「フェイク」を生む国民の分断
そもそも、報道について、何が「正しく」て、何が「正しくない」のか。実際に「嘘」なのか、「特定の政治的な立場の人物にとって都合の悪いもの」なのか――。 アメリカでは、この差が分かりにくくなっているという構造的な背景がある。 その背景とは、保守派とリベラル派の間の強い分断である政治的分極化に他ならない。国民が大きく分断しているため、リベラル派、保守派のいずれも。自分たちにとって受け入れやすい情報を優先的に取り込み、そうでない情報は信じないという傾向がある(これをメディア理論では「選択的接触(selective exposure)」と呼ぶ。もともとはテレビなどの選択に使う用語だっただが、SNSの時代となり、選択がさらに容易にそして瞬時になったため、「選択的接触」の度合いはけた外れに進んでいる)。実際には正しい情報でも「フェイク」と感じ、虚偽の情報でも「正確」であると信じるような世論の土壌がアメリカにはあるといえる。 国民の分断がどれくらい進んでいるのかは、大統領の支持傾向をみれば明らかである。 例えば、世論調査会社のギャラップが12月11日から17日にかけて行った調査の場合、トランプ大統領の支持率は35%で、不支持率は過半数を超える60%となっており、25ポイントも不支持の方が多い。トルーマン政権の途中から始まった同社の支持率調査の中でも、就任1年目の12月の時点としては、トランプ大統領の支持率は最低である。 しかし、党派別にみると、全く異なってみえる。同じ調査だが、共和党支持者でトランプ氏を支持する人は77%なのに対し、民主党支持者で支持すると答えた人は7%で、なんと70ポイントも差がある。無党派が31%で、ちょうど両者の中間といった形だ。 このように国民が大きく割れる状況はオバマ政権でも同じであり、民主党支持者から8割以上の支持を集めたが、共和党支持者からの支持は10%強だった。この分断がトランプ政権になり、拡大しつつある。