【試乗記】走り良し、使い勝手良し、気になるのは価格だけ! ヒョンデの新型EV"インスター"に韓国・ソウルで試乗!!
車中泊だって楽勝のシートアレンジにびっくり!
ヒョンデが今年6月に発表した新型AセグメントEV「インスター」はどんな魅力を持ったクルマなのか。エンジン編集部のムラヤマが、韓国・ソウルを拠点に開かれた国際試乗会から報告する。 【写真38枚】このデザインは面白い! 日本でも売れそうなヒョンデ・インスター ◆来年春には日本へ上陸 10月下旬、ヒョンデの電気自動車ラインナップに最新作として加わった「インスター」に、お膝元の韓国・ソウルでいち早く試乗する機会を得た。アイオニック5、コナに続く末っ子として登場したAセグメントの小型EVインスター、来年春には日本への上陸も予定されているという。 インスターと初めて対面したのは試乗プログラムの拠点となったホテルの地下駐車場。インスターの外観は、2021年に韓国で発売された内燃機関モデル「キャスパー」に一見よく似ている。実際、試乗車のリア・エンブレムが「Casper」なのは、韓国国内では「キャスパーEV」の名が付けられているからで、キャスパーをベースにEV化したクルマなのである。キャスパー比で全長230mm、全幅15mm、ホイールベースは180mmも拡大したというボディの寸法は全長3825mm×全幅1610mm×全高1575mmで、日本の軽自動車より一回り大きく、5ナンバーの小型車より一回り小さい。とはいえ、無塗装のホイール・アーチ、シルバー加飾のスキッドガードやルーフレールなど、タフでワイルドな仕立ての効果だろうか。親しみやすい愛らしさを備えながらも、しっかりとした存在感があるのだ。また、ベースのキャスパーとは差別化されたピクセル形状のLEDターン・シグナルやテール・ライトなどを持つ。これらはアイオニック5にも通ずるデザインで、ひと目でヒョンデの電気自動車の一員であることが分かるようになっている。 インパネは至って普通だ。ステアリング・コラムに備わるシフト・セレクターこそ兄貴分と同じだが、メーターとセンターのディスプレイは別体式で、エアコンの操作系などには物理式スイッチが多く残されている。奇をてらわず基本に忠実なこのデザインは、私には、むしろ好印象だった。どんなクルマに乗っていた人でも、仮にEVに乗るのは初めてだという人でも、すぐに使いこなすことができるものになっているのだ。 駆動用バッテリーには、エネルギー密度の高さを重視した三元系リチウムイオン電池を搭載する。容量は標準が42kWhで97psを発生するが、試乗車は49kWhのバッテリーを搭載し、115ps・147Nmのシングルモーターで前輪を駆動するロングレンジモデル。航続距離は公称値で370kmだが、オプションの17インチを履く試乗車は電費的には不利になる。 しかし、始動時のメーターは残99%で421kmを示している。さあ、いよいよその走りを確かめてみよう。 ◆走り良し、使い勝手良し 市街地を少し走り、まもなく高速道路に入った。まず印象的だったのは、とても静かに走ること。路面状況や速度にかかわらず、205/45R17のオールシーズン・タイヤからのロードノイズはほとんど聞こえないのだ。一番大きく聞こえるのは風切り音や車外の騒音で、その処理はさすがに兄貴分に軍配が上がると感じたけれど、車格を考えれば十二分で、助手席の人とは常に小さな声で会話できるレベルに収められている。 乗り心地はどちらかといえば硬めだが、入力の角は取れていて収束は早いから心地良い。さらに付け加えるならば、Aセグメントのクルマであることを忘れてしまうくらいに前後方向のピッチングが少なく、動きが落ち着いているのだ。おそらくはロング・ホイールベース化された成果なのだろう。それもそのはず。上の写真をご覧いただきたい。コナと比べて全長は53cmも短いにもかかわらず、車体の前後の端まで目一杯に引き伸ばされたホイールベースは、たったの2cm短いだけなのである! クラスを超えた走りの上質さに、助手席に同乗した他媒体の記者と「いいですね!」と意気投合した。 モーターの力強さも必要十分だ。中・高速域からの加速はさすがに穏やかになるものの、流れに合わせた微細な速度コントロールのしやすさは低速域から上々だ。120km/h制限の追越車線を流れに乗って走るのだって、何てことはない。 一方で、クルマの運転は積極的に楽しみたいタイプの私にとって、少し物足りなかったのはステアリング操作の安定感だ。軽めの操舵力で回せる味付けのステアリング・ホイールは、市街地では運転のしやすさに繋がっているのだが、高速道路では、もう少し中立位置でどっしりと安定しているほうが、より疲れにくいように感じられた。とはいえ、インスターが主に使われるのは市街地や郊外の一般道だと思うし、市民の日常の足として使われることを考慮すれば、納得できる仕上がりである。 同様に、スポーティな走りを試そうとした際に気になったのは、前席シートの剛性感だ。ステアリング・ホイールを押し出すように、手に掛ける力を背中で支えようとすると、バックレストの剛性感が今ひとつ足りないと思ったのは正直な感想である。また、長距離走行時には、全体的にもう少し大柄でサポート性の強いものが欲しくなるとも思った。むろん、これらはインスターのようなセグメントのクルマに求めるべきことではないのかもしれないけれど……。そんな欲が出るほど、走りの基本がしっかりしているクルマなのだ。 シートといえば、インスターの魅力は多彩なシート・アレンジにもある。80mmの前後スライドに加えてリクライニング機能も持つリア・シートは50:50の分割可倒式。さらにはフロント・シートまでも、背もたれを前方に折りたたむことができるのだ。そうすれば車内はほとんどフル・フラット状態だ。長尺物の運搬はもちろん、ちょっとした車中泊だって楽勝だ。どんなアレンジで楽しむか、考えるだけでワクワクしてくる。 さて、そんなことを考えているうちに昼食会場のホテルに到着。休憩を挟みつつ、出発から3時間強が経っていた。バッテリーの減り具合を確認してみよう。ちなみにここまでの道のりは、少しの市街地と、高速道路を抜けたあとは、信号の少ない、流れの良い郊外の道路が多かった。 出発してからの走行距離は110km。残航続可能距離の表示は316kmで、出発時からは105km分減っている。バッテリー残量は出発時から23%減の76%だ。電気モーターがあまり得意とはしない高速走行が多かったのに、すごい効率の良さだ! 驚くべきその数値は、平均9.7km/kWh。計算上は、満充電で478km走れることになる。別日に約20kmの試乗をした際には10km/kWhの大台を超えた。充電スピードも速く、 120kWの急速充電器を使えばわずか30分で10%から80%まで充電できるというから、たまに遠出に繰り出すのだって何の問題もない。走り良し、使い勝手良しとなれば、あと気になるのは日本での価格。現時点では未定とのこと。発表を待ちたいと思う。 文=村山雄哉(ENGINE編集部) 写真=ヒョンデ、村山雄哉 (2025年ENGINE 1月号)
ENGINE編集部
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