五輪メダリスト・末續慎吾さんのプレッシャーとの向き合い方。一度やめたことで見えてきたもの
オリンピックでのアスリートたちの活躍に胸を躍らせた人も多いだろう。 日々コツコツとトレーニングを積み、世界中が注目する大舞台で実力をいかんなく発揮するアスリートのメンタリティは並大抵のものではない。そのメンタル術を少しでも習得できれば、我々も“ここぞというとき”にプレッシャーを跳ね除ける力がつくのではないか……。 ▶︎すべての写真を見る
そこで歴代のオリンピックメダリストに、どうやってメンタルを強く保っているのか、ここいちばんで力を出すにはどうしているのかを教えてもらった。
誰にも守ってもらえない環境で獲得した五輪切符
2008年の北京五輪で男子4×100mリレーに出場し、オリンピックの男子トラック種目で、日本初の銀メダルを獲得した末續慎吾さん。 小学生から陸上を始めた末續さんが、初めてオリンピックに出場したのは2000年のシドニー五輪。当時はまだ東海大学の大学生。家庭の事情で「経済的に陸上を続けることが困難かもしれない」という状況の中で勝ち取った代表の切符だった。
「もしシドニーオリンピックに出られなかったら、地元に帰ってもう舞台に立つことはないという追い込まれた状況でした。でも、それで開き直った気持ちで競技に臨めたことが、僕を強くした一因かもしれません」(末續慎吾さん、以下同)。 元々情緒的な性格で、“ウェットな感情”を他人にぶつけてしまうこともあるという末續さん。 「ただ、学生のときはそんな性格がうまく働いたと思っています。若さのいいところって、良くも悪くも深く考える必要がないことなんですよね。覚悟と情熱を持って、自分が今できることにフォーカスし、ぶつかっていったことで、代表を勝ち取れたんだと思います」。
まずは自分のキャパシティを知ることが大事
社会人になればプレッシャーを感じたことが1度や2度ならずあるだろう。末續さんもプレッシャーを感じ始めたのは、実業団選手になってからだという。
思い出すのは、2008年に行われた北京五輪の4×100mリレーだ。 「実は僕、リレーって嫌いなんですよ。人生を賭けている選手もいるなかで、ほかの人の人生まで背負えませんから」と苦笑するように、リレーは見ているこちらにもその緊張感が伝わってくる種目。 スピードを争うだけでなく、スムーズなバトンパスが要求され、ちょっとしたミスが順位を大きく左右する。