「笑わなくなった」の真意は…年末の4時間半会見で露呈したプーチン大統領と国民の乖離
■「救世主」を自認するプーチン大統領
一方、プーチン氏は自分の決断と行動の正しさについては、どのような角度からの批判にも即座に反論し続けた。 たとえば、4時間以上が経過したころに順番が回ってきたBBCロシアのローゼンバーグ編集長の質問だ。彼はプーチン氏が権力を譲り受けた1999年の大みそかの日にさかのぼって質問した。 「ちょうど25年前、ボリス・ニコラエヴィチ・エリツィン(元大統領)が辞任した際、あなたに『ロシアを頼んだ』と言いました。しかしいま、あなたが始めた“特別軍事作戦”では多大な犠牲を出し続け、ロシア西部クルスク州にはウクライナ軍がいます。制裁やインフレ、人口問題に見舞われています。それでも、あなたは自分がロシアを守ってきたと思いますか?」 プーチン大統領の反応は素早かった。 質問が終わる前に「ダー!(=イエス)」と強い口調で答えた。 そして続ける。 「私は単に守ってきただけではない。奈落の底から引き戻したのだ。ロシアが独立した主権国家であり続けるよう、全力を尽くしているのだ」 プーチン氏は、西側諸国は都合のいいようにロシアを利用していた。そこからロシアを独立した国に導いているのだと主張する。その言いぶりは、まるで自分はロシアの「救世主」だと宣言しているようだ。そしてプーチン氏は、そう自分自身に言い聞かせているようだった。
■笑わなくなった「救世主」
およそ2年ぶりにプーチン氏と電話で話したドイツのショルツ首相が「プーチンの戦争観は全く変わっていなかった。良くない兆候だ」と述べたように、プーチン氏は自らの思い描く歴史の世界に、この3年間でますます没入している。 最大の問題は、足元の国民の変化に気づいていないことだ。 コレスニコフ氏の質問に戸惑いを見せたプーチン氏だが、戦争がウクライナだけでなく、ロシア人々の人生までも大きく変えてしまっていることを気にかけている様子はない。 「笑わなくなった」というのは、傷ついている国民に寄り添っているというよりも自分の歴史観が共有されないことにいら立ちを深めているように見える。 皮肉にも、プーチン大統領は「ロシアの救世主」だとの自認を深めるほどに、国民との乖離が深まっているようだ。 ふとこんな考えがよぎる。 今もロシア中で、100を超えるともいわれる少数言語で、“笑わなくなった救済者”に対して不都合な「秘密の会話」が交わされていたりはしないだろうか。 もしプーチン氏が、本当に国民に寄り添っているのであれば、自身の変化は“笑わない”どころでは済まないだろう。
テレビ朝日