「笑わなくなった」の真意は…年末の4時間半会見で露呈したプーチン大統領と国民の乖離
■「何か変わったか」プーチン氏の答えは?
コレスニコフ氏の質問に話を戻そう。彼が質問したように、戦争はすべての人を変えた。 マリーナさんのように、一見、戦争前と変わりないような生活を送っているロシアの人たちも、心の内にはさまざまな葛藤を抱えている。厳しい抑圧によりそれが社会の表層に現れていないだけだ。 コレスニコフ氏の質問は、こうしたロシアの状況をオブラートに包んで指摘しているようにも聞こえた。プーチン大統領はどう答えるのだろうか? 「もちろん私たちはみな、変化しつづけます。毎日、毎時間変化しています。その場にいる人たちも、聞いている人も、見ている人も変わっていくと思います。それが人生です。すべては流れ、すべては変化します」 まるで空虚な言葉の羅列は、持ち合わせていない答えを話しながら自分自身で探っているようだ。 その声は、会場の後方では聞き取りづらいほど弱々しかった。あとでロシア大統領府の映像で確認すると、ピンマイクが声を拾っているのではっきりと喋っているように聞こえるが、実際の声はとても小さかった。 プーチン大統領は、「戦争があってもなくても人の人生は変わるものだ」というロシア人を突き放すかのような発言を途中で軌道修正する。 「この3 年間、いや2 年以上、もちろん私たち全員にとって、国全体にとって、そして私にとって、それは深刻な試練でした」 そしてこう続ける。 「率直にいいましょう。私たちは今ここで冗談も言っていて、ホールには笑い声が響きます。しかし私は冗談を言うことが減り、ほとんど笑わなくなりました」
■「人間プーチン」を見続けてきた記者
この答えをどう受け止めればいいのだろうか? そもそもなぜ、「戦争であなたは変わったのか」とプーチン氏に尋ねたのか、コレスニコフ氏に確認したかった。というのも、コレスニコフ氏は25年前、当時無名のプーチン氏が大統領に就任した直後に長時間のンタビューを行っているのだ。 インタビューは1度に4時間、合計6回行われ、プーチン氏はKGB時代の話に留まらず、両親のことや、貧しい少年時代には棒でネズミを追い回す遊びに興じていたエピソードなどプーチン氏という人物を探る手掛かりになるエピソードを多く語っている。 つまりコレスニコフ氏は、25年前から「生身の人間」としてプーチン氏を見続けてきたのだ。 記者会見の終了後、群衆の中でもコレスニコフ氏はすぐに見つかった。薄手のパーカーにジーンズというその場にまったく似つかわしくないでたちは、逆に目立つ。神経質そうな面持ちでプーチン大統領がまるで別人のよう見えたのだと話してくれた。 「今回の記者会見はこれまでになく、単調でした。私たちの目の前にいる大統領は、これまでとはまったくの別人のようでした。なぜそう見えるのか、会見の冒頭からずっと疑問に思っていたのです」 では、プーチン氏の答えはどう受け止めたのだろう? 「あの答えは『非公式』なものだったと思います。『冗談を言うことが減り、ほとんど笑わなくなった』という答えを聞いて、なぜ目の前にいる大統領が別人のように感じたのか、その謎が解けたと思いました」 「非公式」というのは、事前に用意された「公式」的なものではなく率直な気持ちということだ。だからコレスコフ氏は、プーチン氏が笑わなくなったというのは、嘘偽りではないだろうと考えている。