英国総選挙に立候補したAIスティーブとは何者?政治の世界に入り始めたAIと、問われる政治家の存在意義
■ 既に始まっている、政治の場での生成AI利用 以前に書いた記事「立法の世界で進む生成AIの活用、ChatGPTが生成した条例案が議会通過の事例も」でも紹介したように、政治家が法案の作成に生成AIを利用するという例は既に始まっている。 改めてその事例を解説しておくと、それはブラジル南部リオグランデ・ド・スル州の州都ポルト・アレグレにおいて、ChatGPTが生成した条例案が市議会を通過したというものだ。しかも、ChatGPTの作文であることは、実際にこの条例が施行されるまで明らかにされなかった。 この大胆な行為に及んだのは、中道右派政党のブラジル社会民主党に所属するラミオ・ロサリオ市議会議員。彼は政治の場でテクノロジーを活用することに興味を持っており、ChatGPTに条例を書かせてみようと思い立った。 ただ大きなトラブルになることを回避するため、シンプルで、論争の的になるような問題を避けたものにすることにし、「水道メーターの盗難時にその所有者を保護する」という法案を生成。この法案は2023年10月に市議会の本会議において全会一致で可決され、11月23日に施行された。 ロサリオ市議会議員ほどでなくても、立法や行政、政策立案の場で生成AIを活用するという例は、少しずつ見られるようになってきている。 たとえば、世界各国の議会が参加する国際組織である列国議会同盟(IPU)が発表したレポートによれば、生成AIは文章の要約や議会討論の記録の作成などといった形で、議会における実験が始まっている。 また、英イングランドとウェールズの地方自治体を代表する組織である地方自治協会(LGA: Local Government Association)は、イングランドの地方自治体におけるAIの導入状況を調査し、2024年6月にレポートとして発表した。 それによれば、回答した自治体のおよそ70%が、人事、総務、調達、財務などさまざまな分野において、生成AIを利用または利用を検討していることが判明している(LGAのレポート)。 さまざまな事務手続きや意思決定を生成AIで効率化するというのは一般企業ではもはや当たり前の話であり、行政や立法だから生成AIの活用が進まないなどということはない。 とはいえ、政治家や自治体の長をAIで置き換えてしまうというのは、あまりにも話が飛躍しているようにも感じられる。「ロボット政治家」と単なるAIによる業務効率化、その中間点はどのあたりになるのだろうか。