英国総選挙に立候補したAIスティーブとは何者?政治の世界に入り始めたAIと、問われる政治家の存在意義
■ 米国では市長選にAIチャットボットが名乗り ミラーは市長選の届け出用紙に「VIC」と記入して提出。これは彼が仲間と共に開発したAIチャットボット「Virtual Integrated Citizen(仮想統合市民)」を略したものとされ、ミラーの行動は「AIを市長選に立候補させている」と受け取られた。 ただ彼は、英レジスター紙の取材に対して、「市長選に立候補したのは自分」という立場を崩していない。「VIC」は「ビクター(Victor)」の略でもあるため、届け出用紙に記入された名前は自分である、と解釈することも可能であるという言い分だ(レジスターの記事)。 VICが当選した場合、彼の方がVICのアバターとなって行動するとしているので、前述のAIスティーブと同じ構図と言えるだろう。 彼のこの曖昧な態度は、ワイオミング州法の規定に配慮したもののようだ。 同州法によれば、選挙に立候補するには「有資格の選挙人」でなければならない。AIがそれに該当しないのは明らかで、実際に州政府の関係者は、彼の立候補申請が却下されるよう求めている。そこであくまで「立候補したのは人間である自分」という建前をつらぬくことで、申請を通そうという魂胆なのだろう。 では、そのVICとはどのようなチャットボットなのか。 各種報道からの情報をまとめると、これはOpenAI社のAIモデルであるGPT-4を利用してミラーらが開発したもので、シャイアン市議会が公開している数千件の公的文書を学習データとして微調整されている。 さらに、公的記録や政策文書などのソースから大量のデータを分析。情報に基づいた意思決定を支援するように設計されているそうだ。党派的には「無党派」であり、データとエビデンスに基づいて、シャイアン市民に利益をもたらす政策を策定するとしている。 仮に立候補が認められたとして、VICにはもうひとつ、乗り越えなければならない壁が待ち構えている。ミラーはGPT-4を使用するにあたり、OpenAI社側に許可を取らなかったというのだ。 同社は選挙において自社製品が使われることに関するガイドラインを定めており、WIRED誌の報道によれば、「政治的キャンペーンに関する当社のポリシー違反により、このGPTに対して措置を講じた」ことを表明している(WIREDの記事)。 これに対しミラーは、必要に応じて、VICが使用しているAIモデルをLlama 3(Meta社が提供している製品)に切り替える姿勢を示している。 ミラーの行動が示しているように、何らかの情報に基づいて質問に答えるAIチャットボットを作成するというのは、OpenAIやMetaといった企業が提供しているものを利用することで簡単にできるようになっている。AIスティーブやVICが今回の選挙で敗れたとしても、同じような挑戦を行う人物がすぐに表れるだろう。