アストロスケールの衛星「ADRAS-J」、デブリに15mまで接近–世界で最も近い距離に
アストロスケール(東京都江東区)は12月11日、商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」が観測対象の宇宙ゴミ(スペースデブリ)まで約15mの距離に接近したことを発表した。世界で最も近い距離になるという。 運用を終了した衛星やロケット第2段(上段)などのデブリは「非協力物体」と呼ばれ、外形や寸法などの情報が限られるほか、位置データの提供や姿勢制御などの協力が得られない。対象デブリの劣化状況や回転状況など、軌道上での状態を把握しながら安全、確実に接近、近傍運用(Rendezvous and Proximity Operations:RPO)することは、デブリ除去を含む「軌道上サービス」には不可欠な技術となっている。 2月から運用されているADRAS-J(Active Debris Removal by Astroscale-Japan)は、実際にデブリに安全な接近し、近距離でデブリの状況を調査する世界初の試み。2009年に打ち上げられたロケット「H-IIA」の上段(全長約11m、直径約4m、重量約3t)へのRPOを実証し、長期間軌道上を周回するデブリの運動や損傷、劣化などの状況を撮像する。 今回のADRAS-Jのミッションは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「商業デブリ除去実証(Commercial Removal of Debris Demonstration:CRD2)」プロジェクトのフェーズ1として実施されている。今回の接近は、JAXAのミッション要求とは別に、アストロスケール独自に実施した事業者独自ミッションであり、捕獲運用直前までのRPOを実証し、将来のミッションに備えることが目的。 具体的には、まずデブリの後方50mの距離からデブリと同一の軌道上を直進し、その後、将来のデブリ除去として対象デブリを捕獲して軌道から離脱させる「ADRAS-J2」(Active Debris Removal by Astroscale-Japan2)のミッションで捕獲する箇所として想定している衛星分離部(Payload Adapter Fitting:PAF)の下方に回りこんで接近、最終的には、ADRAS-J2で対象デブリの捕獲運用開始を想定している距離にまで接近し、相対的に速度や距離、姿勢をあわせることを想定していた。 今回は、これまでのRPOと同様に、搭載センサーでデブリの3D形状を高精度で測定し、その動きをリアルタイムで観測。自律的なナビゲーションシステムでそのデータをリアルタイムで処理し、デブリの動きを予測しながら自身の軌道や姿勢を制御しながら段階的に距離を縮めたという。 接近や姿勢制御がこれまで以上に繊細で困難な極近距離で慎重かつ精密に運用することで、予定通りデブリの後方50mからPAFの下方約15mに機体を位置付け、一定時間、相対的な距離と姿勢を維持することに成功した。 その後、ADRAS-Jは、デブリとの相対姿勢制御の異常を検知し、自律的にアボート(衝突を回避するためマヌーバを実施し安全な距離まで待避する)した。ADRAS-Jはデブリから待避しており、安全な状態を保っているという。 このアボートでは、1度目の周回観測時のアボートと同様に、衛星が自身の内部の異常や対象物体との相対距離や姿勢の異常を検知して対策するシステムである「FDIR」(Failure Detection Isolation and Recovery)が機能した。 今回、極近距離での運用中でも安全を確保できること、軌道上で設計通りに自律的アボートマヌーバが実施されたことで衝突回避機能の設計の正しさを再度確認することができたと説明している。 7月に実施した周回観測では、対象デブリのPAFに大きな損傷が見られないことが明らかになったと説明。8月13日に再度実施した周回観測では、別アングルでの撮影に成功した。 今回、15mより近く接近することはできなかったが、50mから15mにデブリとの距離を縮め、その後のアボートも含めて、ADRAS-J2に向けて運用データを集めることができたと同時に、今後の軌道上サービスの提供に向けて、より一層RPOの実績を積むことができたと意義を解説している。これまでのADRAS-Jミッション運用実績は以下の通り。 2月16日=Rocket LabのElectronロケットで打ち上げ 2月22日=デブリへの接近を開始 4月 9日=相対航法(Angles-Only Navigation:AON)と近傍接近を開始 4月16日=相対航法(Model Matching Navigation:MMN)を開始 4月17日=デブリ後方数百メートルへの接近に成功 5月23日=デブリ後方約50mへの接近に成功 5月23日=定点観測(1回目)を実施、成功 6月17日=定点観測(2回目)を実施、成功 6月19日=周回観測(1回目)を実施。アボートで衝突回避機能の有効性を実証 7月14日=デブリ後方約50mに到達、定点観測(3回目)を実施、成功 7月15日=周回観測(2回目)を実施、成功 7月16日=周回観測(3回目)を実施、成功 7月17日=最終接近(1回目)を実施、約20mへの接近に成功。その後アボートで衝突回避機能の有効性を実証 8月13日=周回観測(4回目)を実施、成功 11月30日=最終接近(2回目)を実施、PAFの下方約15mへの接近、位置付けに成功。その後アボーで衝突回避機能の有効性を実証
UchuBizスタッフ