男性で最も多いがんを知っていますか? ~中高年の方はご注意~【あなたの知らない前立腺がん】
◇5年生存率、Ⅰ~Ⅲ期は100%
がんには「病期」というものがあります。Ⅰ、Ⅱ期は前立腺がんが前立腺の中にとどまっている場合、Ⅲ期はリンパ節に転移をしている場合、Ⅳ期は骨や他臓器に転移をしている場合です。この調査では、前立腺がんの病期別の5年生存率はⅠ期からⅢ期は100%、Ⅳ期は62.2%という数字も報告されました。一方、膵臓(すいぞう)がんの5年生存率は、Ⅰ期は43.3%、Ⅱ期は19.3%、Ⅲ期は5.7%、Ⅳ期は1.7%でした。 このような数字を見ると、「前立腺がんは寿命に影響を及ぼしにくいんだなあ」「治療の必要もないのでは」と考えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。でも、この後の話を読んでもそう思いますか?
◇ホルモン療法
前立腺がんに対する治療に、ホルモン療法(内分泌療法とも言います)があります。前立腺がんは、男性ホルモンの刺激で病気を進行させる性質があります。これを逆手に取った治療がホルモン療法です。つまり、男性ホルモンの分泌や働きを妨げる薬を使用することで、前立腺がんの勢いを抑えこむ治療です。たとえ転移をした状態で診断されても、あるいは治療後に再発した場合でも、このホルモン療法を行うと1~5年程度(患者さんにより期間に差があります)は、がんの勢いを抑えることができます。最近では、新規ホルモン療法という従来よりも強力なホルモン療法や抗がん剤による治療が進歩したことで、進行した前立腺がんが見つかっても、5年間生存する患者さんは少なくないのです。
◇がんを治すことはできない
しかし、これらの薬物療法は、がんの勢いを抑えることはできても、がんを治すことはできません。つまり、徐々に薬の効果は弱まり、がんは進行してしまうのです。前立腺の中を流れる血液は、背骨の中にある血管(椎骨静脈と言います)を経て心臓に戻ります。このため、前立腺がんは背骨に転移しやすいのです。もちろん生存できることは大変良いことです。しかし、徐々に薬は効かなくなり、背骨に転移すると、医療用麻薬を必要とするひどい痛み、歩行の困難、さらには下半身の感覚が低下するなどの症状に悩まされることになります。そして、抗がん剤の治療も治療効果がなくなってしまうと、生命の危険が迫ってきてしまいます。つまり、がんの種類によって、生存率の尺度を変えるべきなのです。また、生存期間だけではなく、痛みや生活の質(QOL)を保つことができる期間についても評価されるべきではないでしょうか。 今回は、イントロダクションということで、前立腺がんの紹介をさせていただきました。日本人にとって、重要なテーマであるがん、さらに多くの男性にとって避けることができない前立腺がん! 皆さんと一緒にこれから、前立腺がんを知る時間をご一緒させていただきたいと思います。最後まで、お付き合いください。この連載を読み終えた時、皆さんが前立腺がんの知識を周囲の皆さんと共有していただくことを願っています!(了)
小路 直(しょうじ・すなお) 東海大学医学部腎泌尿器科学領域教授 2002年東京医科大学医学部医学科卒業、11~13年南カリフォルニア大学泌尿器科へ留学、東海大学医学部外科学系泌尿器科学准教授などを経て24年から現職、第7回泌尿器画像診断・治療技術研究会最優秀演題賞。米国泌尿器科学会、日本泌尿器内視鏡学会などに所属。著書に「名医に聞く『前立腺がん」の最新治療』(PHP出版)など。