その瞬間に放送禁止用語を発したドヘニー…7回TKO勝利も本当に井上尚弥は“不調”ではなかったのか?
しかしドヘニーはディフェンスに徹してまったく前へ出てこなかった。後ろ重心で上体を後ろにそらす及び腰。大橋会長がドヘニーを挑戦者に指名した理由は危険を伴うが日本のリングで3連続KOを果たしていたそのアグレッシブなスタイルを買ったもの。真吾トレーナーは「尚のプレスがきつくて出たくても出てこれなかったのでは?」と分析していたが、それは誤算だった。 3ラウンドに入るとガードを固めてわざと打たせた。だが、結果的に手数が減り、2人のジャッジがドヘニーを支持することになった。4ラウンドも、ドヘニーは足を使ってヒット&アウェー戦法を徹底し続けて、このラウンドも2人がドヘニーに「10―9」を付けることになった。 ドヘニーのプロモーターは「アウトボクシングで井上が3、4ラウンドは戦術を変更した」と自画自賛したが、井上は、この2ラウンドを「ガードを打たせてみたり、どう突破口を開いていこうかと少し考えた」と振り返った。 それでも被弾はひとつもなかった。内容的には完勝である。5ラウンドには左フックから右ボディを効かせた。ただダウンシーンは演出できず6ラウンドは、かなりの数の右ストレートを繰り出したが腰が浮き体重が乗らずパンチが流れた。 井上の凄みはどんな体勢、どんな状況でからでも、常にベストのフォームで拳にパワーを最大限に伝達できるパンチを打てることにある。それがこの日はムラがあり日本刀のようないつものキレに欠いた。まるで目眩でも起きているかのように、クビを何度か小刻みに振る仕草も気になった。 だが、会見で井上は「調子は良かった」と不調説を否定した。 真吾トレーナーも「シャープで丁寧にしっかりと戦ってくれた。調子は悪くなかった。満足です」と証言した。この日、井上は当日体重62.7キロでリングに上がった。約7キロの増量で、前回より約700グラムのプラス。当日の体重で言えばキャリア最重量だ。井上は「意図的に増やせるだけ増やしてみようとした」という。 ドヘニーの増量に対抗したわけではない。 「ボクシングスキルが落ちない程度でどこまでリカバリーできるかを試してみた。体重の作り方も踏まえて当日の適正体重もどれくらいかを確かめていきたい」 そして「若干、体が重かった」とも認めた。しかし、それが不完全燃焼に終わった原因ではないという。 「正直、出来が悪いとは思っていない。ドヘニーほどのキャリアを持つ相手が、こういう戦い(ディフェンスに徹する)をすれば、ああいう戦いになる。自分として丁寧に最善を尽くした。みなさんが思う結果とは違ったかもしれないが、自分の中ではそんなに気にはしていない」 井上はリング上では「長く試合をしていればこういう試合もある」とも語っていた。
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