「電話が怖い」若者が急増中?症状5パターンの対策法を心療内科医が解説!
近年、「電話が怖い」人が増加中? 「かけるのが怖い」、「出るのが怖い」、「聞かれるのが怖い」、「頭が真っ白になる」、「怖くて電話ができない」…それぞれのパターンについて、心療内科医の鈴木裕介先生が原因と対策法を解説します。 自分でできる呼吸法、セラピー、瞑想ほか【メンタルヘルスを整えるアイデアまとめ】(画像)
■「電話恐怖症」と「電話が怖い」の症状・対策の違い 鈴木先生:さまざまなケースの対策をお伝えする前に、改めてお話ししておきたいのが「電話恐怖症」と単に「電話が怖い」という状態との違いです。医学的には、電話恐怖症は「限局性恐怖症」のひとつと考えられています。 限局性恐怖症とは、特定の状況や対象に対して、非現実的で激しい不安や恐怖感が持続する状態です。高所や閉所、クモやヘビなど動物、落雷や雷鳴に対する恐怖症などが多いですが、電話恐怖症も比較的ポピュラーなもののひとつです。電話に出ることやかけることに対して、実際に起こり得るリスクに見合わないほどの強い恐怖感があり、パニック発作や強い動悸が起きることもあります。日常生活や仕事に支障をきたすものであり、専門的な治療が必要です。 一方、「電話が怖い」というのは、電話に対する苦手意識や不安感がある状態を指しますが、それが過度でない場合や、日常生活にあまり支障をきたさない範囲のものです。これは多くの人が持つ不安で、練習や慣れによって克服できることが多いです。 基本的に、今からお話する対策は後者の「電話が怖い」へのものです。「電話恐怖症」である場合は、自己判断で対策せず、専門家のアドバイスを受けてくださいね。 このことを踏まえ、電話にまつわる不安を取り除く方法を模索していきましょう。 ①「電話をかけるのが怖い」場合:「注意のシフト」で気が楽に 鈴木先生:「電話が怖い」レベルであれば、「習熟」でなんとかできます。かけ続けることで軽減する可能性が高いですが、そうはいっても怖いですよね。その怖さを軽減できる心理的・物理的対策をお教えします。 <心理的対策> まずは、「電話は命を取られるようなことではない」と意識してください。緊張しすぎる人は、重大にとらえすぎる傾向があります。 また、不安というのは自分に注目すればするほど増幅するという特徴を持っているので、電話の相手にどう思われるかを気にしすぎないことも有効です。ここでのポイントは、「自分がどう見られるか」から「相手に何を伝えるか」に意識をシフトすること。これを「注意のシフト」と呼びます。自分の発言が相手にどう受け取られるかを気にするよりも、電話の目的や伝えたい内容にフォーカスすることで、不安を感じにくくなります。 電話の際に自分と相手の関係について心配しなければならないことは、「取引先に失礼のないように」程度です。自分がどう見られるか、好かれるかどうか等は本来気にしなくていいことなんですよ。 <物理的対策> これはとても簡単で、話さなければいけない内容をしっかりメモしておくこと。リストアップした箇条書きでもいいですし、不安が強いならば、台本のように読み上げればいい自分なりのマニュアル的なものを作成しておくとより安心できますね。 それでも怖さが軽減されない場合は、同僚に助けを求めるのもひとつの手です。メモの内容を確認してもらったり、状況によっては電話を代わってもらう相手を確保して、保険をかけておくのもいいでしょう。 ②「電話を取るのが怖い」場合:姿勢を変えるだけで安心感が増す! 鈴木先生:自分で何もコントロールできない「着信」だから怖い……という心理的状況もあります。できる部分はコントロールして、自分を落ち着かせる対策を取りましょう。 <心理的対策> 実は、姿勢や声のトーンも心の落ち着きに影響します。電話に出る際には、次の点を意識してみてください。 ・ゆっくりと低い声で話すことを意識する。 ・前のめりにならないように、体重を後ろにかける(前傾姿勢は緊張を高めてしまう)。 ・足に重心を置き、椅子に深く腰掛け、どっしりと座る姿勢を心がける。 また、自分を落ち着かせる「おまじない」を取り入れるのも効果的です。例えば、視界の中に、観葉植物や写真、フィギュアなど自分の好きなものや安心できるものを配置して電話を取ると安心感が増します。もし物を置いたり準備したりできない場合は、心の中で落ち着く言葉をつぶやいてみましょう。安心感をもたらす記憶ネットワークを活性化させることができます。好きな動物や推しの名前など、「おまじない」になるワードを探してみてください。 <物理的対策> 電話がかかってきてびっくりしてしまう場合、まずは着信音を変えたり、音量を下げたり、バイブレーションのパターンを変えてみるのはどうでしょうか。 いきなり強い音が来る状況を避けるだけで、突然に強い「圧」や衝撃を感じなくて済みます。これは誰にもまったく迷惑をかけずにできる簡単な対策ですね。 また、携帯電話の場合は“知らない番号は1回目で出ない”、ということも効果的です。留守電を聞いたり、その電話番号がどこからかかってきているのかを調べてから折り返すと、アドリブ感が減り、不安も軽減されるはずです。 ③「電話を聞かれるのが怖い」場合:自分に向けられる周囲の「目」をジャッジする 鈴木先生:これは電話そのものに対する恐怖ではなく、一種の評価不安かもしれません。「自分の電話応対が変だと思われたらどうしよう」と、聞いているまわりの人を怖がっているのです。 自分の行動を他人につぶさに見られるというのは誰でも心地よい感じはしないでしょうが、「それにしても周囲のことが気になりすぎてしまう」と感じるのであれば、以下のような対策をしてみてください。 <心理的対策> 周囲の目が気になる場合、まずはその「目」をジャッジすることが重要です。具体的には、自分をじっと見てくる人や聞き耳を立ててくる人が、果たして自分にとって本当に問題になるのかどうかを見極めることです。また、感じている注目や視線が、実は自分の思い過ごしであることも少なくありません。 もし、特定の人が原因でストレスを感じる場合、その人が意図的に自分にだけ嫌な態度を取っているのか、他の人にも同じようにしているのかを観察する。相手の言動に敵対的な意図があるのか、それとも自分が過剰に受け止めすぎてしまっているのかを冷静に識別する必要があります。自分の受け止め方の問題だとわかれば、少しは気持ちが楽になるかもしれません。逆に、その人の言動に問題がある場合は、第三者に相談するなど、対処する必要があります。 <物理的対策> 人の目が気にならない環境に移動して、電話をかけ直すこと。たとえば、Zoomや個人のスマートフォンなど、プライベートな回線を利用して、人が見ていない場所から電話をかけ直すことが有効ですね。自分に負担のないタイミングやセッティングで電話をすることを心がけましょう。 ④「通話中、頭が真っ白になる」場合:フリーズ後のフレーズを準備! 鈴木先生:頭が真っ白になるという現象は、強い緊張やプレッシャーが原因で起こりやすいもの。緊張すると、脳は「危機的状況」に対処するために交感神経を働かせます。すると、呼吸が浅くなって酸素濃度が低下したり、合理的な意思決定などを行う前頭前皮質の働きが低下するなどして、いま目の前にある会話やタスクに対して、十分な注意を向けられなくなるのです。これは多くの人が経験することであり、特別なことではありません。僕も生放送の番組に出演したときに、同じように、何を喋っているかわからなくなることがありました(笑)。 なので、「頭が真っ白になる」からといって、電話恐怖症であるとは言い切れないのです。スピーチやプレゼンが苦手な人にも起こり得ることですからね。 <心理的対策> 頭が真っ白になってしまった場合、その場での完璧な対応をする必要はないと割り切りましょう。後からカバーできればOKです。 そもそも、1回で伝え切り、聞き取らなければいけない理由はありませんよね。電話の終わりに内容を復唱して確認したり、電話を切った後で確認メールを送ったり、うまくできなかったことをカバーする方法はたくさんあります。 具体的な方法を考えて、「失敗しても、あとからなんとかなる」と緊張感をやわらげる思考にするのがおすすめです。 <物理的対策> 「フリーズ後のフレーズ」を準備しておきましょう。 たとえば、「お電話が遠かったので、もう一度お願いできますか?」や「すみません、少し緊張してしまいまして、もう一度説明していただけますか?」など。頭が真っ白になったときはこれさえ言えばいい!というセリフをいくつか準備しておくことで、適切に対応しやすくなります。 ⑤「どうしても電話ができない」場合:医師やカウンセラーへ相談! 鈴木先生:これは恐怖の度合いが強くて、生活や仕事に大きく支障が出てきているため、「恐怖症」といっていいものでしょう。専門家に相談するべきケースですね。 「したくない」「するのに時間がかかる」ではなく、恐怖が強すぎて「かける/出ることができない」という状態まできているのであれば、単なる苦手意識を越えているように思います。後者のような、恐怖が強すぎるゆえの回避行動は、病名がつくレベルである可能性が高いです。 電話の着信音を聞いただけで体が固まってしまったり、電話がかかってくることを想像するだけで強い不安や恐怖を感じる場合は、心身に負担がかかりすぎているおそれがあります。自分一人で解決しようとするのではなく、専門家の適切なサポートを受けてください。 「自分でなんとかしなければならない」と思わず、専門家へ。電話恐怖症は、曝露療法などの認知的なアプローチや、トラウマ治療に特化した心理療法など、プロによる専門技術が、克服の手助けとなりやすい問題です。実際、「治ると思わなかった」「もっと早く来ればよかった」と患者さんに言ってもらうことも多いです。新しい心理的な治療方法もどんどん進化しており、いま電話恐怖症は治る可能性が非常に高い疾患だと考えています。専門的な心理療法のスキルを持つ、医師やカウンセラーを探してみてください。 【関連記事】なぜ「電話恐怖症」の若者が急増している?心療内科医が解説 内科医・心療内科医・公認心理師 鈴木裕介 日本医師会認定産業医。「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトに、秋葉原内科saveクリニックを開業。産業医としても活躍している。著書に『心療内科医が教える本当の休み方』(アスコム)『がんばることをやめられない コントロールできない感情と「トラウマ」の関係』(KADOKAWA)等。 イラスト/Osaku 取材・文/東美希 企画・構成/木村美紀(yoi)