「商店街のアイドル」は"小さな漫才師"だった…0円で小学生に漫才を教える「大阪のおっちゃん」(54)の正体
■“釜ヶ崎のマザー・テレサ”が教えてくれたこと ただ、上級心理臨床カウンセラーは国家資格ではないため、一つの仕事として活動することが難しかった。そこで小川さんは「みんなで学び合えるような場所を作ろう」と、2009年に知り合いを集めて「人間研究所 こころラボ(以下、こころラボ)」という任意団体を立ち上げた。 ある日、知人から1人の女性を紹介される。日雇い労働者の街として知られる大阪・釜ヶ崎(あいりん地区)で30年間、地域の人々をサポートしている入佐明美(いりさあけみ)さんだ。“釜ヶ崎のマザー・テレサ”と呼ばれる入佐さんは、どんな相手にも1人の個人として尊重する姿勢を貫く人だった。小川さんは、こう振り返る。 「カール・ロジャーズの心理療法って机上の空論って言われることがあるんですけど、ホンマにやってはる人がいるんやって、お会いして涙が止まらんくなりました。入佐さんが『目の前にいる人がどうやったらもっと良くなるかなって考えて、行動しているだけよ』って仰って、また、わーっと泣けて。完璧にここまでとはいかないけど、近い人になれるんじゃないかって思えたんです」 当時の小川さんは、学んだことを何かに生かそうと必死だった。いつも自分のことを肯定してくれる入佐さんから、このように言われたという。 「小川さんはどうしてそんなにカウンセリングにこだわるの? そんなのどうでもいいじゃない。あなたの周りには手を差し伸べてもらいたい人がたくさんいるのに、その人たちに目を向けてないような気がするわ」 その言葉を聞いて、小川さんはハッとした。学びを深めることに躍起になり、肝心なことが抜けていると気が付く。 そこで、小川さんは振り返った。10代の頃、有り余る情熱や葛藤を受け止めてくれる大人に出会うことができなかった。大人になった自分は、理解しようとする人間になれているだろうか? 「テクニックや理論じゃなくて、別になんも知識のないおっちゃんやおばちゃんが『いや、あんたの言うてることようわからへんけど、もうちょっと聞かせてくれるか?』って。関心を持ってくれる人がいるかどうかが大事だったんだなって。ほんなら僕が出会えなかった大人に、自分がなればいいんちゃうかって思うようになったんです」 ■ビールケースとベニヤ板で作った舞台 そこで小川さんは、地元・西淀川区の子どもたちに何かできないかと考え始める。心理学の理論をもとに「誰でも受け入れられて、自由な発想ができるものって何だろう?」と考え、閃いたのが「お笑い」だった。 2011年、こころラボのメンバーとともに、フリースクール「こどもお笑い道場」を立ち上げた。 ひとまず、「こども新喜劇をやってみよう」と近隣の人たちに声をかけた。すると、商店街で働く親を持つ子どもたちが6人ほど集まった。だが、いざ練習を始めたものの、全員の時間を合わせることが難しかった。