じつは「65歳以上高齢者」の「6~7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」
日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。特に人生の後半、長生きをすればするほど、さまざまな困難が待ち受けています。 【写真】じつはこんなに高い…「うつ」になる「65歳以上の高齢者」の「衝撃の割合」 長生きとはすなわち老いることで、老いれば身体は弱り、能力は低下し、外見も衰えます。社会的にも経済的にも不遇になりがちで、病気の心配、介護の心配、さらには死の恐怖も迫ってきます。 そのため、最近ではうつ状態に陥る高齢者が増えており、せっかく長生きをしているのに、鬱々とした余生を送っている人が少なくありません。 実にもったいないことだと思います。 では、その状態を改善するには、どうすればいいのでしょうか。 医師・作家の久坂部羊さんが人生における「悩み」について解説します。 *本記事は、久坂部羊『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)を抜粋、編集したものです。
うつになりやすい高齢者
少し古いデータですが、「日本老年医学会雑誌」によると、六十五歳以上の人の六パーセントに大うつ病(本格的なうつ病)があり、小うつ病(いわゆるうつ状態)を入れると、一五パーセントに達するそうです(二○一○年)。 つまり、高齢者は六~七人に一人がうつに陥っていることになります。 なぜこれほど多くがうつになるのでしょう。 それは高齢になると、いろいろ不愉快なことが増え、忍耐力も衰え、将来の希望も持ちにくくなるからです。 まず、年を取ると心身の機能が衰え、身体が弱って、それまでできていたことができなくなります。視力低下、聴力低下、味覚低下、筋力低下、反射力低下、性機能低下で、見たり聞いたり食べたりの楽しみが減り、活動性も落ちて、不自由と不如意が増えてきます。 脳の働きも衰え、記憶力低下、判断力低下、順応力低下、集中力低下、持続力低下、忍耐力低下と、低下のオンパレードで、物忘れが増え、勘ちがいも増え、判断を誤ったり、物事が決められなかったり、応用がきかなかったり、ひとつのことが続けられなかったり、ひとつのことにこだわったり、すぐにキレたり、些細なことで苛立ったりもします。 さらには、退職して社会的役割が低下すると、出番がなくなり、人から注目されなくなり、年寄り扱いされて不愉快になり、逆にいたわってもらえなくてガッカリしたり、邪魔者扱いされて腹が立ったり、敬ってもらえなくて悲しかったりもします。 加えて、病気の心配、寝たきりの不安、家族との別れ、忍び寄る孤独、そして最後は死ぬことへの恐怖もあります。 いずれもイヤなことばかりですが、ふつうに考えて、だれにでも起こり得ることばかりです。それをあり得ない不幸に見舞われたように感じるから、うつ状態に陥るのです。 もちろん、長生きは悪いことばかりではありません。仕事や義務から解放され、ゆったりとした時間をすごし、これまでの人生を振り返ったり、子どもや孫の成長を見守ったりして、喜びを感じることもできます。 しかし、経済的な余裕のない人は、自由な時間があっても好き放題には楽しめないでしょうし、お金があっても寝たきりでは動けませんし、お金も健康も不自由なくても、することがなければ何をしていいのかわからず、退屈のつらさを味わいます。 人生を振り返るといったって、まったく悔いのない人生をすごした人は少ないでしょうし、子どもや孫の成長を見守るとしても、関係が常に良好とはかぎらず、子や孫の進学、就職、結婚などに心配や不満があったり、病気やひきこもりや家庭内暴力、不登校やイジメ、非行など、さまざまなトラブルに悩む人もいるでしょう。 長生きには喜びや楽しみもある代わりに、思い通りにならないこともあるのが現実です。いつまでも元気で若々しくというのは万人の望みでしょうが、そればかりに気持ちが向いていると、老いの現実が受け入れにくくなってしまいます。老化による衰えを認めざるを得ない状況にぶちあたったとき、心の準備がないと、苛立ちや落胆、納得できない思い、嘆き、悲しみ、憤りなどで精神が疲弊して、気づけばどっぷりうつに浸っているということになりかねません。 ですから、長生きに伴って起こり得る不具合を、前もってイメージしておくことが大切です。それもできるだけ多く、できるだけよくない状況を想定するのがよいでしょう。 イヤなことを考えるのは、楽しくありませんし、それこそうつのきっかけになると思う人もいるかもしれませんが、能天気なまま日々を送っていることのほうが危険です。長生きをすればするほど、さまざまなイヤなことが押し寄せてくるからです。