イーロン・マスクも見放す…?トランプは「2018年と2023年の習近平」と同じ道を辿る
好き勝手な政策ばかり推し進めた結果…
だが、ガチガチの「イエスマン体制」を築いた結果、どうなったか? まず習近平主席が、わが意を得たりとばかりに、「ほしいがままの政治」を始めた。習主席は3月13日の国家主席受諾演説で、威風堂々と述べた。 「現在から今世紀半ばにかけて、全面的に社会主義現代化の強国を建設し、全面的に中華民族の偉大なる復興をすることが、全党全国人民の中心的な任務である。われわれはさらに優れた発展と安全をコントロールしていく必要がある。安全は発展の基礎であり、安定は強国の前提である。強国の建設には、党の指導と党中央(習近平総書記)による集中的な統一指導の堅持が必須なのだ」 こうして、いわゆる「総体国家安全観」という政策を推し進めていったのである。平たく言えば、「中国ファースト」→「中国共産党ファースト」→「習近平総書記ファースト」へと移行していく流れだ。昨年7月には習近平体制に対する社会の反抗や動揺を阻止すべく、反スパイ法を改正し、今年5月には国家秘密保護法を施行した。今年3月には、国務院(中央官庁)を党中央の下部組織のようにする国務院組織法も制定した。 本来なら、3期目の習近平政権に求められていたのは、3年に及んだ「ゼロコロナ政策」でガタガタになった中国経済を、一刻も早く立て直すことだった。ところが、習近平主席が「総体国家安全観」路線を邁進したため、社会は硬直化し、さらなる経済停滞を招いてしまったのである。 実はこうした、社会が望む政策ではなく自分がやりたい政策を強行してしまうという点が、2025年の2期目のトランプ政権が陥りそうな「愚挙」だ。しかも、自らの身体を張って止めるような直言居士は、周囲に見当たらない。
習近平グループ内部の「権力闘争」
2023年に北京で起こったもう一つの現象は、「習近平グループ内部」の権力闘争の激化である。習主席は前述のように、究極の「お友達共産党」及び「お友達内閣」「お友達軍隊」を築いた。それでおそらく、権力闘争は一息ついたと思ったことだろう。 だが実際には、「習近平グループ内部」で、激しい権力闘争が始まったのである。まもなく秦剛・国務委員兼外相、李尚福・国務委員兼国防相らが「犠牲」となった。 なぜ同じ「習近平グループ同士」で権力闘争が起こるかと言えば、それは誰もが習近平主席だけを見て仕事しているからだ。政治はもとより、経済も外交も軍事も、何もかもを習主席一人が決める体制にしたのだから、誰もが習主席を見て仕事するのは当然のことだ。 その結果、3期目の習近平体制は、習主席と各部下たちという「縦の連携」だけが太くて、部下同士の「横の連携」が頗(すこぶ)る細いのである。そのため往々にして、チグハグな政策が実行されることになる。 一例を示そう。昨年8月末、中国自然資源部は、「新版中国標準地図」を発表し、東シナ海や南シナ海がほとんどすべて「中国の海」であるとした。その直後の9月初旬にASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議やG20(主要国・地域)首脳会議が開かれたため、李強首相以下、中国代表団は総スカンを喰った。自然資源部は、そんな「物騒な地図」は、一連の重要国際会議の後に発表すればよいものを、習主席しか見ていないため、このような外交的ミスを犯したのである。 同様に、来年1月にトランプ政権が出帆するや、おそらくは「トランプグループ内」で、すぐに激しい権力闘争が巻き起こるだろう。幹部たちは皆、トランプ大統領しか見ていないため、横の連携がうまく取れないからだ。 例えば、ほとんどの幹部が、前述のように中国に対して超強硬派なのに、トランプ大統領の「親友」で「政府効率化省」(DOGE)を率いることが内定している実業家イーロン・マスクだけは、親中派である。何せ自らが経営するテスラは、上海に世界最大の工場を持っているのだ。 私は、マスクは早晩、トランプを投げ出すか、中国を投げ出すか(上海工場売却?)、選択を迫られると見ている。先に投げ出すのは中国の方かもしれないが、いずれはどちらも投げ出すのではないか。 2期目のトランプ政権の政策と人事に続く3つ目の問題点は、トランプ大統領の年齢である。78歳という史上最高齢で大統領に就くことになるからだ。いくら見た目を若々しく装っても、寄る年波には勝てない。諸政策の細かい部分で、おざなりになっていくはずだ。 まさに、今年6月に71歳を迎えた習近平主席が、そうなりつつあるのだ。それは、あまりに自分一人に権限を集中したために、疲れてしまったところもあるだろう。