新型コロナウイルスは「第3の破局」を招くか 「神の領域」に立ち向かう「人間の本質」
18世紀末から19世紀初頭の破局・バスチーユからワーテルローまで
18世紀をつうじて、イギリスで大きな技術革新があった。コークス炉による鉄の量産と蒸気機関の発明である。そして産業機械と蒸気船と機関車が動き出して、人類の都市化を一気に加速させる。コールブルックデール橋(1779)は、人類最初の鉄の構造物として近代建築史の第1ページを飾っている。 この「鉄と蒸気機関」の登場に同期するように、アメリカの独立(1776)とフランス革命(1789)という大きな社会変革があり、長く続いたヨーロッパの旧体制と世界支配の体制がひとつの破局を迎えた。続いてフランスと各国の革命戦争(1792~1799)があり、そのままナポレオン戦争に突入する。 1789年のバスチーユ牢獄破壊に始まり、1815年のワーテルローの戦い(ナポレオン最後の戦争)までを、ひとつづきの破局ととらえよう。その結果、ヨーロッパ諸国の体制は貴族社会から市民社会への動きの中で不安定化し、ラテンアメリカ諸国は独立した。こうした破局と同期する「鉄と蒸気機関」という技術革新が、「黒船」として日本の近代化にも火をつけたことは周知のとおりである。 その後、量産工業の拡大によって、都市に労働者が集中し、近代的な都市爆発が起こる。そして同時に、たとえばロンドンなど、過剰な人口密度が次第に環境悪化とスラム化を招いていく。そのロンドンで行われた最初の万国博覧会にはクリスタルパレス(1851)、パリ博にはエッフェル塔(1889)が登場するなど、19世紀ヨーロッパには鉄の構造物が続々と登場して近代建築への序章を形成する。
20世紀前半の破局・「サラエボ」から「ヒロシマ・ナガサキ」まで
20世紀の初め、バルカン半島はサラエボの銃声から勃発した第一次世界大戦は、ナポレオン戦争とは異なり、人が人をではなく、機械が人を殺す戦争となった。 戦艦、戦闘機、戦車、爆撃機といった輸送機器が主役で、その多くが戦争中に開発されたものだ。技術論的なことをいえば、こういった輸送機器は、19世紀をつうじて発達したディーゼルやガソリンによる内燃機関(いわゆるエンジン)によって動いた。つまり「鉄と蒸気機関(外燃機関)」が「輸送機器とエンジン」に変わったのだ。 この戦争の末期、資本主義による労働の過剰からロシア革命という旧体制の破局があり、社会主義の思想と運動が世界各国に拡大した。また海をまたいだ戦争による人間の移動過剰からスペイン風邪(インフルエンザ)という生物学的な破局が現象した。そして建築には、古来の様式と装飾を離れて水平垂直の箱になるという、機能主義モダニズムの革命が起こる。絵画、彫刻、音楽、文学など他の芸術分野にも、同様の抽象表現主義が登場するが、これは逆に見れば、古代以来の伝統文化の破局であろう。 本格的な大量生産工業の発達によって都市化はますます加速され、ベルトコンベアから生まれるT型フォードが世界の道を走りまわった。同時に、資本主義に対する社会主義という「都市化の反力」も肥大する。ウォール街大暴落(1929)という金融の破局が世界恐慌という経済の破局につながり、やがて第二次世界大戦に突入する。第一次世界大戦の賠償金によるドイツの経済的惨状がナチス台頭の大きな原因であったとすれば、二つの世界大戦は連続的である。また戦争の物理的な主役が輸送機器であったことも共通しているが、特筆すべきは第二次世界大戦において航空母艦が主役に躍り出たことと、最後に原子爆弾が登場したことだ。 ここで1914年のサラエボ(オーストリア=ハンガリー帝国皇太子殺害事件)から、1945年のヒロシマ ・ナガサキまでを、連続的な破局現象ととらえてみたい。人類の爆発的な都市化は、20世紀前半に「輸送機器とエンジン」の技術革新と同期して2回目の大きな破局を経験した。