なぜ怪我で23試合出場に留まった神戸のイニエスタが2年ぶり2度目のベストイレブンに選ばれたのか…「特別な1年だった」
必然的に出場試合数23も、そしてプレー時間1607分も、ベストイレブン受賞者のなかで極端に少ない。フィールドプレーヤーでは、例えば初めて受賞した名古屋グランパスのMF稲垣祥(29)は全38試合に出場し、プレー時間は3349分だった。 それでもJ1の20クラブの監督および選手による互選で163票を集めたイニエスタは、ミッドフィールダー部門で川崎の家長昭博(35)の188票に次ぐ2位に、ベストイレブン全体でも6位につけた。短い時間でいかに眩い輝きを放っていたかがわかる。 「一番重要なのはサッカーに対するワクワク感だと思う。毎日の練習でサッカーと向き合うなかでモチベーションを高く保てているし、もっともっと成長したい、さらなる高みに連れていくためにチームへ貢献したい、という意欲がまだまだ自分にはある」 リハビリにも時間を要した大けがが癒え、大好きなサッカーを心ゆくまでできる純粋無垢な喜びに満ちあふれていたのだろう。37回目の誕生日だった5月11日に、今シーズンで満了する契約を2年間延長したイニエスタは、愛してやまない神戸の町での生活に「今後も続いていけば、というのが自分の願いです」と笑顔を浮かべた。 「初めて来たときから温かく迎え入れてくれた。自分の国を出て新しい場所で生活を始めるのは決して簡単ではないけど、いまはここに居場所を見つけられている感覚がある。自分はこの国でプレーができることに、家族は生活できることに喜びを感じている」 開幕から上位につけてきた戦いの軌跡は、実は東京五輪後につまずきかけた。 ホームのノエビアスタジアム神戸に柏レイソルを迎えた再開初戦で、後半アディショナルタイムに喫した失点で敗れた。しかし、7月にセルティックへ旅立ったエース、古橋亨梧の穴が大きく響いてくる前に8月に加入したフォワード陣が躍動した。
柏戦に続く鹿島アントラーズ戦の後半から新天地・神戸でのデビューを果たし、決勝点をアシストした武藤嘉紀(29)は最終的に14試合で5ゴールをマーク。加入直後こそ精彩を欠いた大迫勇也(31)は、第35節以降の4試合で3ゴールをあげた。 一度も連敗を喫しないままクラブ史上で最高位となる3位を確定させ、来シーズンのACL出場権を手にして臨んだ4日のサガン鳥栖との最終節では、武藤との完璧なコンビネーションから大迫が豪快な先制点をゲット。2-0の快勝でシーズンを締めた試合後に、大迫は来シーズンへつながる手応えに声を弾ませている。 「試合を重ねるごとに、武藤との関係はすごくよくなっている」 自らが操るパスの標的となる2トップがコンビでも、そして個々でも輝きを放ちながら、まさに右肩上がりの軌跡を描いてシーズンを終えた状況が、イニエスタを「いままでで一番の結果を残せた。来シーズンは今年以上の結果を残したい」と喜ばせる。 「この夏にクラブは素晴らしい補強をしたが、リーグ戦やACLのタイトルを勝ち取るためにはチームとしてもう一歩、成長する必要がある。いままで多くのタイトルを取ってきたクラブではないので、そこは驕りのないように、警戒心を持ってプレーしなければいけない。それでも、ワクワク感とタイトルへの意欲を持って戦っていきたい」 昨シーズンに続いて、新型コロナウイルス禍という特異な状況が続いた。プロサッカー選手ではなく、地球上に生きる一人の人間として「本当に難しかった」と振り返ったイニエスタは、来年にさらなるポジティブな変化が起こってほしいと望む。 「難しい状況を世界が経験しているときは、サッカーやスポーツはいったん脇に置かなければいけないこともある。それでも一刻も早く通常の生活ができて、一緒にスポーツを楽しめる環境を取り戻せるように、みんなで努力できたらと思う」 神戸の三木谷浩史会長は大迫や武藤の入団会見の席でサステナブルな投資、つまりは積極的な補強をさらに継続すると明言している。今シーズンを上回る神戸が描かれた未来予想図は、攻撃のタクトを振るイニエスタを中心にますます大きく広がっていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)