「変な人たち」が多様なテレビコマーシャルを生んだ 伝説的プランナー・小田桐昭さんとたどるCMの発達史【放送100年②】
実は、有名な国鉄(現JR)の「フルムーン」キャンペーンのCMでも、同様のことがあった。中高年の夫婦に旅行を勧めるため、小田桐さんがまず企画したのは、定年退職した実在の夫婦が古都を旅するドキュメンタリー的な作品。「いい日旅立ち 人生その2」と締めくくった。 「真面目なテーマだから、ふざけられないと思った。ところが、CMが流れても、何の反応もない。何か間違っている、と気付きました」 キャンペーンの対象となる年配の女性に話を聞くと、夫と旅行なんて嫌だという。「旅行は日常から非日常に向かう。なのに、僕らはドキュメンタリーで日常をやってた。フィクションにして、高齢者でも新婚旅行のようにドキドキするものに、と考え直したんです」 1981年、往年の大スター・上原謙さんと高峰三枝子さんが旅に出るCMを作り、「第2のハネムーン、フルムーン旅行」にいざなった。続編には、2人が温泉に入るセクシーな場面も。CMは大反響を呼び、フルムーン夫婦グリーンパスは一挙に広まる。当時は団体旅行が中心だったが、2人で出かける夫婦が増えた。
「生活様式が変化した。広告は、人の行動や考え方を変える可能性があります」 ▽作風は持たない 1981~82年の東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)のCMも、注目を集めた。こびと化したサラリーマンが、ボウリングのレーンやビリヤード台で新聞を読んでいると、ピンやボールがかすめていく。「今日、無事だったのは、偶然ではありませんか」といったナレーションが響く。 東京海上からは「明るいブランドイメージで、怖いCMを作ってほしい」と難しい注文を受けていた。損害保険の機能を素直に表現すれば、暗くなってしまう。「事故を、いかにカラッと描くか」。考え抜いて、巨大なセットを作り、実写で制作した。 「人は楽観していないと、生きていけない。心配ばかりしても、しょうがない。ただ、備えることはできる。このシリーズでは、楽観主義を笑うというか、『人間の不思議さ』が隠れたテーマでした」 他にも、小田桐さんはユニークなCMを数多く世に送り出している。整然と並んだシャープペンシルの芯の上を、鉄の玉が転がる三菱鉛筆の「ハイユニ替え芯」。女子高校生に見とれた男子中学生が、「ドテ」と倒れる資生堂のスキンケア用品「エクボ」。米国の超大物タップダンサーのグレゴリー・ハインズさんが躍動する宝酒造の焼酎「レジェンド」…。