皇后定子を亡くした寂しさから妹を寵愛した一条天皇 大河ドラマが描かなかった「もうひとつの悲劇」とは?【光る君へ】
大河ドラマ『光る君へ』では、幼い頃から寄り添い続けた一条天皇(演:塩野瑛久)と定子(演:高畑充希)の愛が描かれた。第28回「一帝二后」では、定子が第2皇女(後の媄子内親王)の出産後間もなくこの世を去り、悲嘆に暮れる一条帝の様子が涙を誘った。しかしこの後、定子の遺児と一条帝の寵愛を巡って、大河ドラマで描かれなかったもうひとつの悲劇が生まれたのである。 ■定子の実妹・御匣殿を愛した一条天皇 愛する皇后定子を亡くした一条天皇の嘆きは深かったが、問題は定子が産んだ3人の子だった。第1皇女・脩子内親王、第1皇子・敦康親王、そして第2皇女・媄子内親王である。 定子が命を懸けて産んだ媄子内親王は、東三条院・藤原詮子が養育することになった。一方、脩子内親王と敦康親王は、定子の末の妹である御匣殿(みくしげどの)のもとで養育されることになった(敦康親王も共に御匣殿に預けられたという説もある)。『栄花物語』の「鳥辺野」巻では、自分が出産で命を落とすかもしれないと予感していた定子が、自分の子らを御匣殿に託すことを願ったとされている。 この御匣殿とはどのような人物だったのか。彼女は定子の同母の妹にあたる。すなわち父は藤原道隆、母は高階貴子で、道隆の四女だった。定子のもとで「御匣殿別当」という職に就いて女官として仕えており、清少納言の『枕草子』にも登場する。『大鏡』や『栄花物語』では、「美しく控えめな性格の女性」と描写されている。 さて、定子の死後、御匣殿は宮中で亡き姉の遺児を養育していた。そしてそんな健気な姿が一条天皇の目に留まったのか、やがて寵愛されるようになったのである。亡き定子の面影を彼女に求めたのか、それとも自分の子の成長を気にかけるなかで母代わりとなっている御匣殿の人柄に惹かれるようになったのかは定かではない。 やがて御匣殿は一条天皇の子を身ごもった。これを聞いた同母兄の藤原伊周・隆家兄弟は大喜びし、中関白家再興のため皇子誕生を強く願っていた。 しかし、現実は残酷だった。出産のため宿下がりした御匣殿は、子を産むことなくそのまま亡くなったのである。『権記』には長保4年(1002)6月3日没とある。生年がはっきりしないため何とも言えないが、『栄花物語』「はつはな」巻では享年17~18歳ということで、早すぎる死だった。一条天皇もその死を深く嘆いたという。 さて、『光る君へ』でも描かれた通り、彼女が養育していた敦康親王は長保3年(1001)8月に中宮彰子のもとに移っている。この背景には、一条天皇の寵愛をうけて妊娠した御匣殿を脅威と感じた藤原道長らが、中関白家を牽制する意図があった可能性もあるのだ。いずれにしても、定子の死が3人の子らの運命を大きく狂わせ、一条天皇の心に影を落としたことは言うまでもない。
歴史人編集部