<軌跡・センバツ京都国際>/下 「中崎頼み」脱却へ兆し 大阪桐蔭戦 8安打し自信 /京都
小柄な選手の機転が、センバツへとつながる活路を開いた。 近畿地区大会に臨んだ京都国際は2023年10月22日、1回戦で田辺(和歌山)と対戦した。九回を終わって2―2の同点で、無死一、二塁から攻撃が始まるタイブレークにもつれ込んだ十回。中崎琉生(2年)、奥井颯大(2年)のバッテリーが踏ん張って無失点に抑えた裏の攻撃だった。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 1点取れば試合を終わらせられる状況で、先頭の清水詩太(1年)は送りバントを試みたが、相手投手にうまく打球を処理され、二塁走者は三塁封殺。1死一、二塁となり、サヨナラのムードが急にしぼみ始めた時だった。 打席に入ったのは、チームで最も小柄な身長160センチの三谷誠弥(2年)。ボールを二つ見極めた後の3球目に思いついた。「長打はなかなか打てない。ずっと練習していたし、府大会でも成功していたアレをやろう」。相手の意表を突くプッシュバント。打球は遊撃手の前に転がって内野安打となり、満塁の好機にチームは再び勢いづいた。 「直球を強く振ろう」と決めて打席に入った沢田遥斗(2年)が初球を仕留め、サヨナラの右前適時打。不安視されていた得点力不足が露呈して常に後を追う展開となり、三、八回にいずれも高岸栄太郎(2年)の適時打で追いついた苦しい試合を何とかものにした。 同29日の近江(滋賀)との準々決勝は、さらに厳しい投手戦となった。初戦で12三振を奪って10回を完投した中崎は、制球重視で無四球の投球を続け、相手にホームを踏ませない。しかし、打線はこの試合もなかなか上向かず、七回まで二塁を踏めなかった。 スコアボードに両チームの0が並んで迎えた九回裏の攻撃。先頭・高岸の安打などで1死二塁。次打者は、ここまで勝負どころで凡退することも多かった清水だった。「心の弱さでバットが思い切り振れていなかったが、あの打席は『初球から行く』と決めていた」 急病で一時チームを離れて遊撃のポジションを清水に譲り、この試合ではボールボーイを務めていた藤本陽毅(2年)がアイコンタクトを送り、その思いを後押しした。狙い通り初球をフルスイングして左前適時打。2試合連続のサヨナラ勝ちで、「春」が近づいたことを誰もが感じた。 大会3連覇を達成することになる大阪桐蔭(大阪)との準決勝(11月3日)は、先発・中崎が6回3失点でマウンドを降り、0―4でスコア上は完敗。それでも8安打を放って反撃の糸口を探り、もがいた打線は覚醒の予感を感じさせた。「相手と野球センスなどは変わらないと思った。ただ体つき、大きさは負けてると思った」と清水は振り返る。 敗戦を教訓に、秋以降は体力強化に重点を置いた厳しい練習を積んできた。選手たちは日々たくましさを増し、チームは進歩を続けている。「中崎におんぶにだっこ」だった昨秋の戦いぶりから脱皮するために。長い冬を越え、春の甲子園で大輪の花を咲かせるために。【矢倉健次】 〔京都版〕