アウト・プッシュの賭けと、持てなかった勇気。前戦好調のふたりがもてぎで抱えた“共通の現象”/SF第5戦
前戦富士スピードウェイの予選でポールポジションを獲得した福住仁嶺(Kids com Team KCMG)。そして決勝では今季初優勝を遂げた坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)。迎えた第5戦モビリティリゾートもてぎでも好調を維持したい両名だったが、8月24日の予選日はそれぞれ思惑どおりの結果とはならなかったようだ。 朝のフリー走行を6番手で終えた福住。タイムはまずまずだったものの、感触があまり良くないという「一番嫌なパターン」だったと振り返る。気温が上がる予選に向けてはセットアップをアジャストし、Q1・Bグループではトップからコンマ2秒差の3番手。「このままだとちょっと厳しい」と感じた福住は、Q2に向けては自ら『アウト・プッシュ』(アウトラップ翌周のアタック)を提案した。 「朝から、ニュータイヤを履いても新品タイヤという感覚があまりなくて、タイヤがウォームアップしているのかしていないのか分からない雰囲気があった」ことも、Q1と同じ『アウト・ウォーム・プッシュ』を選択しなかった理由だと福住は説明する。 「午前中(のセッション終盤)にアウト・プッシュしていたクルマもいたし、午後の方が路温も上がるし……ギャンブルしました」 そのQ2ではトップから0.384秒差の10番手に終わったが、アタック周回を早めるという判断が良かったかどうかは「分からない」と福住は振り返った。 「セットアップはいい方向に行った気はするし、アウト・プッシュに行ったというだけの問題ではないと思います。トライしたことなので、そこに対する悔いはありません。順位だけ見ると悔しいですが、ポイントを取れる位置だし、明日の天候も分からないので……」と決勝に向けポジティブな側面も強調する。 前戦富士の決勝では、優勝も狙える展開でレースを進めていながら、ピット作業のロスにより後退を喫した福住。その後、西山悟総監督からは「厳しい言葉」もあったというが、「チームとして何が足りないかを確認して、悔いがないように、ミスがないように、しっかりとした良いチームを作る」ためのミーティングもできているという。予選日の“賭け”を、いい形で決勝につなげていきたいところだろう。 ■ドライのロングランには「かなりの自信」を持つ坪井 一方、前戦富士では僅差の予選で4番手を獲得。決勝ではピットタイミングを引っ張った後、フレッシュタイヤで見事な追い上げを見せた坪井。もてぎの走行初日は「フリー走行の中古タイヤでは、結構調子が良かった」というが、その時点で「中古はいいけど、新品ではキツいのではないか」と感じていたという。 フリー走行終盤にニュータイヤを履いたところ、その予感は的中。新品分の伸び代がなく、「そのダメさ加減が“結構ダメ”で、正直『予選は無理だな』というレベルでした」と、予選を前にしてだいぶ追い込まれていたようだ。 福住と同じく、ニュータイヤでの向上が見られなかったことについて、坪井は次のように口にしている。 「基本的に中古にクルマのバランスが合ってしまっている以上、ニュータイヤを履いてもタイムが出ないのは必然かなと思っています。ただ、今シーズンはその傾向がずっとあるので……今回はとくに、ニューを履いたら厳しいだろうな、という感じでした」 坪井陣営はセットアップを突き詰めてなんとかQ1を突破、Q2につなげてリカバーを果たしたが、ポールポジションから0.283秒差の8番手に飛び込むのが精一杯となった。 「フリー走行で出遅れた分が、Q2までに間に合わなかったというか……。『もう1ステップ上』が見えてはいたのですが、そこに行く(セットチェンジする)勇気が持てませんでした。そこで勇気を持って行けていれば、もうちょっと違う景色が見えていたのかなと思います」 また、今季チームを移籍してきた坪井は、「トムスはもてぎを苦手としている印象があった」という。移籍後初のもてぎ走行となったこの日、「実際に乗ってみて、その苦手な部分は感じられました。ただ、やっと『ここが悪かったんだな』というのが見えただけに、悔しい予選になってしまった」という。 引き続き、中古タイヤでのロングランペースには「かなり自信を持っている」と語る坪井は、決勝がドライになれば、富士のような好ペースも期待できそう。ただし、抜きづらいとされるもてぎのコースレイアウトが、ひとつのネックにはなりそうだ。そしてもちろん、天候もレースを大きく作用する。 「雨が降って、前が見えなくて、一列縦隊でレースをすることになるのが一番嫌ですが、ドライでしっかりとレースができればチャンスはあると思います」 [オートスポーツweb 2024年08月24日]