かつて「塀」の地図記号は10種類もあった!当時はひたすら歩いて現地調査。地形図を精密に描いた<明治ならでは>の理由とは
地図を読む上で欠かせない、「地図記号」。2019年には「自然災害伝承碑」の記号が追加されるなど、社会の変化に応じて増減しているようです。半世紀をかけて古今東西の地図や時刻表、旅行ガイドブックなどを集めてきた「地図バカ」こと地図研究家の今尾恵介さんいわく、「地図というものは端的に表現するなら『この世を記号化したもの』だ」とのこと。今尾さんいわく、「戦前の塀に関連する記号にあたる『構囲』は種類が異常に多かった」そうで――。 【図】いろいろな塀関連の記号が見られる大正期の東京・六本木交差点付近 * * * * * * * ◆塀は元祖ストリートビュー 平成30年(2018)6月1日、府中刑務所から塀がなくなった。ただし「出入り自由の矯正施設」が登場したわけではなく、地形図上での話である。 半世紀ほど前に世間をあっと驚かせた「3億円事件」を目撃したはずのこの塀は、2万5千分の1地形図にはずっと描かれてきた。 その3億円でボーナスが支払われるべきだった従業員(保険金で無事支払い済み)たちの勤める東芝府中工場の塀も同じ記号で描かれていたのである。 ところが最新の2万5千分の1「立川」の平成30年調整版が6月1日に出て、その塀が消えた。 要するに「へい」の記号が廃止されたからだが、どんな記号かといえば、幅0.2ミリの太線を引いた内側に1.5ミリ間隔で「トゲ」を付けた形である。ちょうど袖壁の付いたブロック塀を上から見たような形状だ。 もっとも個人宅の塀まで網羅していたら煩雑で読めたものではないから、記号を示す対象は「石、れんが、コンクリート等で作られたへいに適用し、高さ2m以上、長さ75m以上で好目標となるもの」(「平成14年2万5千分1地形図図式」)に限定されている。 刑務所や大きな工場の他には大学、庭園、御用邸など相対的に広い施設の塀がこの記号で表された。 「75m以上」とあるが実際の適用は数百メートル以上で、ふつうの小中学校の塀が描かれたのは見たことがない。