消費者のメリットはどこにある? 「デジタル給与」開始の影で見え隠れする「厚生労働省」の思惑
デジタル給与の導入について、人事・労務・会計業務を支援するフリー株式会社(東京都品川区)の小泉美果プロダクトマネージャー兼金融渉外部長は「(電子マネーへ)チャージの手間がなくなり、選択肢の一つ」と話す。一般の勤労者のみならず、最近増えている外国人の労働者が日本で銀行口座をすぐ開設できないことがあり、現金のみならず、電子マネーでも賃金を受け取れることは望ましいのではないかという。外国人が銀行口座を開設するには、一定期間以上の在留や在留カード、住民票が必要とされる。 企業側もデジタル給与導入に関心を示している。すでに導入したソフトバンクグループのほかにも、小泉さんは「サカイ引越センターやニチガスが検討しているようです」と話し、アルバイトが多い業種などで採用に際してアピールできるとみている。 導入企業にとってデジタル給与は「若者などデジタルに理解ある人へのアピールになる」と話すのは日本総研の谷口栄治主任研究員。デジタル給与が普及するかには、電子マネーの運営事業者が「どれくらいキャンペーンをするかにもよる」とみる。一方、「これ(電子マネー)じゃないとだめという人がいるのか」とも話す。デジタル給与の希望者がどれだけいるのか、見通しにくいという。 ◆PayPayの「保有残高」の上限は20万円 デジタル給与について、前出の丸子さんは「まわりの人たちに聞いてみると、圧倒的に銀行口座に振り込んでほしい人が多かった」と話す。一方で、「一部にはPayPayで振り込んでほしいという人もいて、月2万円分くらいなら、チャージの手間が省けて大歓迎という人もいました」という。 「電子マネーは日々の消費に使う分を支払うもので、滞留することを想定していません」と話すのは、前出の小泉さん。電子マネーは、人それぞれに利用する額や頻度が違い、さらに時期によって利用額が大きく変動することもある。月に一度だけ定額で給与の一部を電子マネーで受け取っても、利用額が少ないと電子マネーの滞留分(残高)が膨らんでいく。 デジタル給与の支払いは保有残額が100万円までの制限がある。その範囲で給与の全額や一部をデジタル給与で受け取れる。通常の電子マネーはチャージすると現金に戻せないが、デジタル給与として認められる電子マネーは現金に換金できる。滞留分が100万円に達すると、超過分は指定された銀行口座に振り込まれる仕組みだ。すでに認められたPayPayでは、保有残高の上限を20万円に制限している。 電子マネーで給与を振り込まれても、滞留限度の超過分は換金され、銀行口座へ振り込まれるため、デジタル給与の意味がなくなる。一方、デジタル給与で受け取る電子マネーを月々の利用額より低く設定すると、自分で追加チャージする手間が発生する。 デジタル給与の希望者は、給与の全額でなく一部の場合が多いとみられ、従業員に給与を支払う事業者は、振り込みが銀行口座と電子マネーに分散して手間がかかる。