消費者のメリットはどこにある? 「デジタル給与」開始の影で見え隠れする「厚生労働省」の思惑
「オートチャージでいいんじゃないの?」という声も……
前出の谷口さんが妻に、デジタル給与が導入されたら利用するか聞いたところ、利用しないとの返事だった。電子マネーには銀行口座などから自動的にチャージしてくれるオートチャージの機能があるものもあり、その機能を上手に使えば、デジタル給与として受け取る必要がないからだという。 電子マネーによっては、銀行口座やクレジットカードと連動して入金してくれるオートチャージの機能がある。たとえば、残高を設定しておけば、利用後にその残高を下回ると自動でチャージされる。チャージ金額も設定できる。このオートチャージの機能の有無や仕組みは、電子マネーによってさまざまだ。 前出の丸子さんは「オートでなくチャージしていますが、手間だとは思いません。わざわざコンビニなどへ行ってチャージするのは手間ですが、夜中でもスマホなどのアプリでチャージができます」と話す。 デジタル給与は電子マネーの使い方にもよるため、すべての勤労者にメリットとも言いにくい。電子マネーによっては銀行口座と連動してオートや手元でチャージできるなど、便利な機能で自分に合う使い方をすれば、デジタル給与は必要ない。一方、電子マネーで生活するなど、使い慣れた若い世代などで、デジタル給与が普及していく可能性はある。 デジタル給与導入の背景として、金融当局の規制を強く受けている銀行など金融界のみならず、電子マネーなどを扱う「フィンテック業者」も参加できるようにしていくことがあると、前出の小泉さんは指摘する。フィンテックとは、金融と技術を組み合わせた造語で、金融サービスとIT(情報技術)が結びついて技術革新が進み、金融界ではパソコンやスマホなどを通じた送金など、新しいサービスの提供が進んでいる。そこにフィンテック業者がビジネス機会を見出そうとしてる。 ◆見え隠れする「厚生労働省」の思惑とは…… 連合(日本労働組合総連合会)は「賃金は労働の対価で、賃金が支払われる口座には安全性と確実性が確保されなくてはならない」とする。デジタル給与の対象となる電子マネーの運営事業者は、一定の要件を満たすものに限定され、破産時の速やかな保証や、不正利用で労働者に損失が生じた場合の補償などの仕組みなどが整っていることを挙げる。 最近は電子マネーの運営事業者がポイント付与などで消費者を囲い込み、それぞれの「経済圏」を形成する。小泉さんは「経済圏をやっている電子マネー事業者はデジタル給与を狙っていくのではないでしょうか」と話す。 デジタル給与の対象として厚労省に認められると、その電子マネーは社会的信用が高いとみられるだろう。電子マネーの運営事業者には、デジタル給与の対象になることがビジネス展開にプラスになる。 デジタル給与の導入を進めてきた厚労省にとっても、医療業界などにとどまらず、電子マネーの運営事業者と接点ができ、デジタル給与の対象者として認める立場となる。銀行など金融界は金融庁の管轄だが、成長産業を担うフィンテック業者とのつながりもできた。 デジタル給与の導入が一般の勤労者にどこまでメリットになるのか、わからない部分が多いが、少なくとも電子マネーの運営事業者や厚労省にメリットとなることは確かだ。 取材・文:浅井秀樹
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