足るを知る。始末のいい暮らしを学びに『昭和のくらし博物館』へ。
東京都内の駅名を「あ」から五十音順に選出し、その駅の気になる店やスポットなどをぶらりと周っていく連載企画「東京五十音散策」。「し」は下丸子へ。
夏は建具をすだれに取り替えて、冬は火鉢に火を入れる。現代では失われつつある風習だけど、四季の移ろいに応じて暮らしを整える工夫って、やっぱり粋だよなぁ。下丸子に、これらが当たり前だった昭和の生活風景をまるごと閉じ込めたスポットがある。 東京五十音散策 下丸子③
その『昭和のくらし博物館』は、下丸子駅から久が原駅方面へ歩き約10分、保育園や神社が入り混じる普通の住宅街の中に突如現れる。特筆すべきはいわゆる国や市が運営する公共施設ではなく、あくまで昭和26年に建てられた個人住宅であることだ。当時の一般家庭であった「小泉家」の暮らしていた痕跡がそのまま残されている。
2階建ての館内をぐるりと周ると、プラスチックのない台所の様子、刺し子で補強した暖簾、着古した衣類を用いた手作りのハタキ……と、「モノを無駄にしなかった」暮らしの知恵が随所に詰まっていることがわかる。今回対応してくれた学芸員の小林こずえさんによると、昭和20年代に建てられた木造の住宅自体も日本でほぼ残っていなく、建築物としても貴重な存在。そのため、映画『男はつらいよ』でお馴染みの山田洋次氏をはじめ、『この世界の片隅に』を手掛けた片渕須直氏など著名な映画監督も度々リサーチに訪れるそうで、昭和期における庶民のリアルな暮らしを知るにうってつけの場所のよう。
実家を博物館として生まれ変わらせたのは、小泉家の長女であり、日本の生活史・家具史の研究者である御年90歳の小泉和子さん。「家をのこし、くらしを伝え、思想をそだてる」をモットーに、常設だけでなく年に1度は企画展を開催したりと、今日まで大切に継がれてきた。
気候変動や戦争などによる不安定な現代を生き抜くために、昭和の力強い暮らしを知り、考えてみよう。環境に配慮しつつ、その中で自分のスタンスに合った方法を取捨選択してみる。「ちょっと待てよ……」と、一度立ち止まって考える時間こそが工夫の種となり、始末のいい暮らしに近づくのだろう。中庭で実る青々とした甘柿を眺めながらそんなことを考えた。
インフォメーション
『昭和のくらし博物館』 平成11年に開館。昭和戦前期から昭和40年代頃までの一般家庭で使われていた生活道具が中心に展示されている。また、別館として館長と親交の深かった『画家・吉井忠の部屋』も併設されているから、1日中楽しめるのもポイント。 ◯東京都大田区南久が原2-26-19 ☎︎03・3750・1808 10:00~17:00 月・火・水・木休 大人:500円、小学生~高校生:300円、未就学児:無料 photo: Hiroshi Nakamura, text: Fuya Uto, edit: Toromatsu
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