「若い選手に出場機会を与えることを怖がってはいけない」U-17世界王者ドイツが苦しむ“仕上げの育成”
「選手を信頼すること。出場機会を与えることを怖がってはいけない」
もちろん、U-17ワールドカップで優勝したからといって、ユース年代ではトップクラスの選手として評価されているからといって、彼らが即戦力としてトップチームで活躍できる保証などどこにもない。そのままプロの世界で大成できるという法則もない。 育成年代のサッカーと年齢の壁が取っ払われたプロのサッカーはまったく別物であり、プロは決して甘い世界でもない。それでも、だからこそ、その違いの中で経験を積みながら、チームの助けとなる働きができるようなサポートが必要なのではないか。 これはドイツに限った話ではなく、日本においても当てはまるテーマだろう。 若手選手が出場機会をつかみ、ブレイクスルーを果たすのには実力だけではなく、いろいろなタイミングや運も絡んでくるものだ。波長が合う監督が新しく就任したり、チームが成績不振で起爆剤を求めていたり、チーム内にケガ人や重なって出場機会が回ってきたりというきっかけが必要になる。 その上で、そのようなきっかけがなかなかない場合でも、クラブ側は「仕上げの育成」を重要視し、意識的に若手にチャンスの機会を与える環境を用意すべきだ。どうしてもトップチーム内での実践が難しいのであれば、セカンドチーム・大学チームを有効活用するのか。提携しているクラブへレンタルで出すのか。 若手選手にとっては海外移籍も一つの選択肢となるかもしれない。もちろん海外に行けば必ず成長するというわけでもない。自己分析・自己肯定・自己批判ができるだけの成熟さがなければ、海外ではどこかでひずみに陥る。 具体的なビジョンと目標を持って育成年代から選手の成長に向き合う。「チャンスはいつくるかわからない」だけではなく、クラブサイドが成長と向き合えるための最適な試合・練習環境について考慮・配慮し、選手も明確なビジョンを持ちながら取り組むことが求められるのではないだろうか。 ヴュックのメッセージはとてもシンプルで明確だ。「若い選手が次のステップとしてプロの世界で出場機会をつかむために、何が必要なのか?」と問われると、迷うことなく言い切った。 「選手を信頼すること。出場機会を与えることを怖がってはいけない。機能する関係性とは一方通行ではダメなんだ。われわれ指導者が選手を信頼し、選手が指導者を信頼することで初めてうまくいく可能性を見出せる。ドイツの1部、2部クラブにはいまその信頼がない。なぜか? それを自問自答しなければならない」 <了>
文=中野吉之伴