本はワインのような商品になっていくのかもしれない
本を必要とする人をどうやって増やすか
染谷:AIによって大きな余白ができた時に、そこを何で埋めるのかという、時間取り競争が、供給サイドから始まるはずだと考えています。それは旅行かもしれないし、いいコーヒー、いいワインかもしれない。その動きを先取りして、本のために場と時間を提供する、ということを私たちは「箱根本箱」と「文喫」で行っているのだと思います。 2023年に親会社の日販は、紀伊國屋書店、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と共同出資した会社「ブックセラーズ&カンパニー」を設立しました。これは大手書店と出版社が、取次を経由しないで、仕入れ数を決める取り組みで、日販は物流部分に集中して関わっています。長く業界を縛っている慣例に風穴を開ける画期的な取り組みとして、業界内の注目を集めていますが、ここと「ひらく」のビジネスはリンクしますか。 染谷:ブックセラーズ&カンパニーは、出版流通のど真ん中を改革するもので、私たちは、そのど真ん中とはちょっとはずれたところで、いかに新しいマーケットをつくるか、価値を届けるか、ということをやっているので、違った形で本との接点を創造しようとしています。私たちは日販の信頼を最大限に活用しながら、自分たちで、あるいはクライアントと一緒に、新しい事業をつくり、運営するモデルですね。 今、おっしゃった“日販の信用力”は、どういうところで実感されますか。 染谷:まだ世の中にない新規のアイデアでも、「日販さんだから」ということで聞いていただける。そのような、えも言われぬ、言語化できない、のれんの強さというのが、まずはあります。また、全国のほぼすべての出版社、全国の約半分の書店とつながっているところは、大きな強みです。新規の企画をいざ動かす段階で、それを実際に展開できる組織力や情報網は、事業のスピードにつながります。 日販は本の取次会社として、出版社、書店に対して最適なアプローチをしながら、本を必要とする人に本を届けるという企業としての使命を果たす。そこは変わらないところだと考えています。その上で、「ひらく」は、本を必要とする人をどのように増やすかに向き合い、本と接する場と機会をつくっていこうと考えています。
清野 由美