本はワインのような商品になっていくのかもしれない
染谷:基本はそうです。それに加えて、文喫を通して私たちがつくってきたブランドイメージを「のれん」にして、さらに幅広い事業に発展させる考えです。 2024年4月に原宿・表参道の明治神宮前交差点にオープンした「東急プラザ原宿 ハラカド」では、交差点に面した2階・3階共用部分に、雑誌の図書館「COVER」をプロデュースさせていただきました。「文喫」「箱根本箱」は、書店とホテルの新しい形の開拓であるとともに、「ひらく」のパイロットプロジェクトという意味を持たせています。 ●コアではない人々に本との接点をつくる 「ひらく」の事業は、大きく「文喫」「プロデュース」「公共プレイス」に分かれています。3つ目の公共プレイス事業とは、どういう仕事になるのでしょうか。 染谷:「文喫」や「箱根本箱」は、本好きの中でもかなりコアな層が対象ですが、同じ本を読むにしても、そこまでコアじゃなくて、身近に本があれば触れるし、賞をとって話題になれば読みたい、という方は多くいらっしゃると思います。というか、そのような方々が、一番厚い層として存在している。そこにきちんと本をつなげていくことを目的とすると、公共空間が大事な領域になるんです。 そうか。活字中毒ぐらいの本好きって、放っておいても自分から本を探して、能動的に読んでいますよね。 染谷:はい、そのようなコアな方々は、東京・神保町の書店街や、有名書店、独立系書店など、いろいろな接点がすでにあります。ですので、この層でパイの奪い合いはしなくていいと考えていて、そうであれば、違う接点をどう広げていくかが課題になります。公共プレイス事業では、新規、既存を問わず、図書館、公民館、公園などの基本構想策定やプロデュース、運営などを担います。 実際の事業には、どのようなものがありますか。 染谷:図書館という存在を通して、人々に地域の魅力に触れていただくことを目的とした「Library Book Circus」というイベントパッケージを、全国各地の図書館に提供しています。また、静岡県長泉町とは、今年2月に日販として「本を起点としたまちづくり」を目的とした包括連携協定を締結していて、文喫の出張形態「文喫 ハナレ」を長泉町の社会実験に展開したりもしています。茨城県常総市では、令和5年・6年のまちなか再生事業を受託しました。 出版流通やブックディレクションのノウハウがある私たちが、こういった公共プレイスのプロデュースを受託することで、まちづくりの中に「本が身近にある豊かさ」を提案していけると考えています。 今、国内外を問わず、世界のまちづくりで図書館を核にする再開発が注目されています。群馬県太田市の「大田市美術館・図書館」は、建築家の平田晃久さんによる建物が話題ですし、福井県敦賀市の「ちえなみき」では丸善雄松堂と松岡正剛さんが率いた編集工学研究所が指定管理者チームに入り、迷路のような棚作りで発信力を高めています。 染谷:その潮流はとても意識しています。 ただ、まちづくりの事業は、行政からの受託になりますよね。受託事業って、収益になりますか。