本はワインのような商品になっていくのかもしれない
本はワインと同じものになっていく
染谷:今の業界にはそこに大きな隙間があると思っています。今までは生活必需品としての本、雑誌が物理的に存在していたわけですが、スマートフォンなどの新たなデバイスの登場で、モノとしての本は代替可能になりました。 代替可能なものは、この先、さらに便利なものに取って代わられていくでしょう。しかし中身、コンテンツは代替可能ではありません。現在のコンテクストの中では、代替可能でないものは、嗜好品化していくと予測しています。 「本」ではなくて、物理空間としての「書店」「本屋」はどちらでしょうか。 染谷:そこをどう捉えるかが、難しいところですね。リアル書店はネット書店に取って代わられる部分も含めて、なお紙の本を物理的に売っていかねばいけないビジネスです。 その複雑さ、難しさが経営の苦しさの1つになっているとしたら、このあたりで発想を一気に転換して、今後は嗜好品に振ってしまえばいいのではないか。そうすれば、葛藤はなくなるんじゃないかと、私は思うんですね。 嗜好品化という方向性の象徴が、「ひらく」にとって、本を読むための空間事業ということですか。 染谷:そうですね。例えば映画の場合は、映画館に出かける時間も含めて、お客さまの時間を拘束し、それを価値に換えてビジネスを行っています。でも、本はお客さまに買っていただくところまでは、業界のみんなががんばっていますが、その先の読む行為、読める環境については、買った人の自由に委ねている。自由に委ねた結果、本がどんどん読まれなくなっているのだとしたら、そこに対して環境を変えていったり、つくっていったりする。それが事業になると考えているのです。 かつて寸暇を惜しんで本を読む生活を送ってきた私も、今では隙あればスマホを開けてしまっています。 染谷:「箱根本箱」は小田原を拠点に電車やケーブルカーを乗り継ぐ立地です。つまり、そこに行くまでの助走距離が長く、お客さまの拘束時間も各段に増えます。でも、そうやってわざわざ出かけた場所だからこそ、料理とワインと温泉で1泊2日を過ごすことが、価値になっている。 だとしたら、その設定の中で、ゆっくり本も読めますよ、と、そこまでやれば、「今日はちょっとスマホを脇に置いておこうか」という意識設定が可能になるのではないか。実際、そのぐらいの装置がないと、みんな本を読むというところまでリーチできない時代になっていると思います。 ああ……本がワインと同列になっているんですね。