海軍士官としての体験を生かした交響組曲の名作『寄港地』【クラシック今日は何の日?】
クラシックソムリエが語る「名曲物語365」
難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。
イベール『寄港地』 海軍士官の体験を生かした名作とは
今日8月15日は、20世紀フランスにおける重要な作曲家、ジャック・イベール(1890~1962)の誕生日です。 フランス音楽の伝統である、軽快さ、簡潔さ、鮮明さを受け継ぎ、新古典主義のスタイルに取り入れた作品の数々は、今も高く評価されています。 そのイベールは、パリ音楽院在学中に勃発した第一次世界大戦に志願して海軍士官として従軍。その後音楽院に復学して卒業し、5年後の1919年に、カンタータ『詩人と妖精』で、見事若手音楽家の登竜門「ローマ大賞」を受賞します。 報奨である3年間のローマ留学中に作曲した作品の1つが、出世作として知られる交響組曲『寄港地』でした。作品に盛り込まれているのは、海軍士官として地中海を航海し、各地に寄港した際に接した異国情緒や、ローマ留学中に体験したスペイン旅行の印象など。 これは、ロシア海軍水兵時代の体験を活かして『シェヘラザード』を作曲した、ロシアのリムスキー=コルサコフ(1844~1908)にも通じる興味深い生き様です。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。
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