FF対FRの同点最終戦は、劇的な1点差の雨天決着でBMWのジェイク・ヒルが初戴冠/BTCC最終戦
数字上で可能性が残された6名のドライバーによる直接対決の舞台が整い、スタンディングでは2022年王者トム・イングラム(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)とジェイク・ヒル(レーザー・ツールズ・レーシング・ウィズMBモータースポーツ/BMW 330e Mスポーツ)が同率首位で並ぶという熾烈な展開で迎えたBTCCイギリス・ツーリングカー選手権の最終戦。 【写真】タイトル候補の4台がドルイドへの進入で接触したレース1のオープニングラップ ブランズハッチのGPレイアウトで争われた週末3ヒートの激しいシーソーゲームの末に、今季最終レースに1点差で臨んだヒルとイングラムは、雨天へと変化したコンディションにも救われた後輪駆動のBMWが、前輪駆動のヒョンデを撃破することに成功。ここで2位表彰台に立ったヒルがキャリア初のBTCCチャンピオンに輝いている。 前戦シルバーストーンで“2勝1敗”とし、ヒルと同ポイントのランキング首位まで持ち込んだイングラムは、この最終戦を前に「自信があり、リラックスしていて、精神的にとても強いと感じている」と自身のテンションが“追う者の立場”であることを強調した。 「これまでブランズGPでは非常に良い成績を収めてきたし、いつも楽しんでいるサーキットだから今週も良い状態になると思う。最終戦で同ポイントというかなりユニークな力学があり、栄光を賭けた一発勝負のように感じられる。ドライバー、チーム、ファンにとってエキサイティングな展開だね!」 そんなイングラムに対し、予選で先手を奪ったのは名門ウエスト・サリー・レーシング(WSR)のBMW艦隊で、FP1で最速を記録したアダム・モーガン(チームBMW/BMW 330e Mスポーツ)に続き、チームの“絶対エース”であるコリン・ターキントン(チームBMW/BMW 330e Mスポーツ)が予選ラップの新レコードを樹立し、今季4回目となるシーズン最後のポールポジションを射止めた。 「今日は主役たちより上位に立つことが重要だった」と自身もタイトル候補の1角を占めながら、事実上の“終戦宣言”で暗にヒルのサポート役に回ることを匂わせた“4冠”チャンピオンのターキントン。 「明日はいいスタートが切れるし、仕事の最初の部分はこれで終わった。明日の仕事もほぼ同じでレースに勝つことを目指すが、まずは1周目を乗り切り、そこから戦略を調整したい。これで3度目の受賞になるグッドイヤー・ウイングフット・アワードを獲得できたのも大変光栄だ。これはチームBMWの全員の努力の証だよ」 ■レース1でタイトル候補の4台が接触 一方のイングラムは、共通ハイブリッドの展開時間がわずか1秒だったにも関わらず、最高のラップを披露してフロントロウを確保。対して「Q2とQ3の間にハンドリングが変調した」というヒルは3列目6番手に留まることに。 そして“Quick Six(クイックシックス)”のシュートアウトまで圧倒的な強さを見せていた、もうひとりの主役でもある王者アシュリー・サットン(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST)は、ポールポジション獲得に向け順調に進んでいたラップで『トラックリミット違反』を取られ最速ラップが剥奪。それでも終盤に巻き返し、なんとか2列目3番手に飛び込んでみせた。 しかし迎えたレース1のオープニングラップでは、この予選でのポジション挽回が仇となる展開が待ち受けており、イングラムとサットン、そして4番手発進だったジョシュ・クック(LKQユーロカーパーツ・ウィズ・シネティック/トヨタ・カローラGRスポーツ)がドルイドへの進入で接触。 クックがブレーキトラブルに見舞われ、インサイドから2台に向け突進したことでサットンはグラベルでレースを終え、クックも僚友の元世界王者ロブ・ハフ(TOYOTA GAZOO Racing UK/トヨタ・カローラGRスポーツ)を巻き込む結果となり、最後はピットレーンに戻ってリタイアを喫するドラマチックな展開となる。 なんとかその場を生き残ったイングラムも、短いセーフティカー(SC)期間が開けるとターキントンがヒルをリードし、イングラムは9番手からの巻き返しを強いられる。 ここで恒例のスパートを披露したヒョンデに対し、すぐにチームプレーを展開してヒルに主導権を握らせたWSR陣営は、3番手まで浮上してきたイングラムをターキントンが完璧に封じ込んでみせ、まずはヒルが今季8勝目を飾った。この結果により、残り2レースでタイトルに挑戦できるのはヒルとイングラムのみに絞られる。 この惜敗に奮起したイングラムは、続くレース2で3番手からスタートを決めると、後半セクターまでにターキントンを制して2番手へ。そのまま2周目のパドックヒル・ベンドでレーザー・ツールズBMWのインにダイブし、そこからレースをコントロール。猛烈な勢いで今季6度目の優勝を果たし、これでヒルとの差を1ポイントとしてみせた。 残るは2024年最後のレース……というこの段階で、上空からは場面を転換させるような雨粒が落ち始め、路面は瞬く間にウエットへ。リバース6番グリッド発進となったヒルは、さらに後方9番手から出たイングラムに一時は先行を許したが、レースのハーフディスタンスを前にイングラムを抜き去り、そのまま上位へと進出。終盤にはクックのカローラを仕留め2番手にまで進出する。 ■ヒルのBMWが2位表彰台でキャリア初の王座に 最終的に6位でフィニッシュしたイングラムのヒョンデに対し、後輪駆動のトラクションを活かしたヒルのBMWが2位表彰台を決め、最終的に8ポイント差で初の王座を確定。厳しいコンディションを制したサットンのフォードが“チャンピオン退役”の瞬間を、今季3度目のトップチェッカーで締め括った。 「この感情を言葉で言い表すことはできないよ……」と、幾度もタイトル候補として最終戦に臨みながら、ようやくの宿願を果たしたヒル。「これはまさに僕がずっと望んでいたことであり、今ここに2024年のBTCCチャンピオンとして立っていることは、ただただ信じられないことだ。シーズン全体が非常に厳しい戦いで、今日こうして最終レースで僕とトム(・イングラム)の争いに決着がつき、わずか1ポイント差の条件だったことは、まさにふさわしい物語さ」 「最初の数周はトムが優勢だったように感じたが、タイヤの内圧が上がると僕にもチャンスがあると感じ始めた。ゴールラインを越えた瞬間は決して忘れられない経験だ。この15年間は、夢が続くのか終わるのかわからない戦いだったけど、今、僕らはそれを実現した! WSR、MBモータースポーツ、そして素晴らしい家族、友人、パートナー全員に心から感謝している」 一方、熾烈なチャンピオン争いを繰り広げた王者経験者ふたりも、初チャンピオンに到達したヒルを称える言葉を残した。 「まずはジェイク・ヒル、MBモータースポーツ、WSRに多大なる称賛と祝福を送りたい。彼らは素晴らしいシーズンを送り、ジェイクはタイトルに完全に値する。僕らの側では、これまでで最高の仕事をしたと思う。最終的にはわずかに及ばず、これは明らかに受け入れがたいことだが、ときには少しの幸運とわずかな差で決まることもある。オープニングの事故がなければ……とも思うし、最終結果にはガッカリしているが、シーズンを通じて示してきたパフォーマンスに少しも落胆することはない。毎週末、僕らはまったく驚異的で運転するのがとても楽しいクルマを用意したんだからね!」(イングラム) 「正直に言って、この週末の3レースすべてで勝てたと思うから、少しほろ苦い気持ちだ。チームが僕に与えてくれたクルマは本当に素晴らしいもので、最後のレースでそれが証明された。最高の状態で終わりたいと言ったが、ありがたいことにそれを実現できたんだ。予選でラップを失っていなければ、レース当日はまったく違ったものになっていたかもしれないが、まさにタラレバだ。ジェイク、WSR、MBモータースポーツに心からお祝いを申し上げたい。彼らは素晴らしい仕事をしてくれた。選手権を制覇することがいかに特別なことかはわかっている。彼がすべての瞬間を味わい、楽しんでくれることを願っている」(サットン) [オートスポーツweb 2024年10月09日]